「ずっと目を覚まされなんだ故、心配しておりました。今、薬と水を持って参ります」
経子は、口を開く前に立ち去った女の後ろ姿をずっと見つめていた。
(あの御方は、一体、何方……?それにしても、おかしい。気を失った所までは覚えておるというに…。なんだか、別の世へ来てしまった感じ……)
――「御加減は、如何?」
薬を持ってきた女は優しい声で経子に話しかける。
「そう言えば、膳の仕度がまだでしたね。暫しお待ちを」
「あの…」
経子は、立ち上がった女の背中に声をかけた。
「何故、かようにお優しゅうして下さるのですか」
女は何も答えず、静かに微笑んで廊下の奥へ消えていった。


