――何処からか琵琶の音色が聞こえる。 (…あれは、徳子殿…?……いいえ、違う…。透き通るような、今までに聞いたこともない程、美しき音色――…) 目を開けると、経子は一室に寝かされていた。 そこは確かに六波羅の館ではあるのだが…蒼色の袿を纏った女が一人いるだけで、他に誰もいなかった。 傍らに琵琶が置いてある。先程までの音色はこの女の奏でていたものなのか。 「…あら、目を覚まされましたか?」 女が経子に向き直り、飛び切り端整な顔で微笑む。 経子にはその顔が、誰かに似ているような気がした。