何事も有職故実に。
それを押し通した重盛は、周りから良い目で見られなくなり、公卿たちからは舐められるようになった。
――「母上…父上は、私のことがお嫌いだったのですか?」
経子が驚いて振り返ると、資盛が沈んだ表情で尋ねていた。
資盛は、重盛が報復をしかねたことについて言っているのだろう。
経子は資盛に向き直り、資盛をじっと見据えた。
「父上には父上のお考えがおありなのじゃ。それに、そなたが輿を降りなんだのは誠のことなのであろう?」
優しい母から浴びせられた厳しい言葉は、資盛の顔を更に俯かせた。
「されど…誰かに何かを見せたいと思うとき。伝えたいときは、自然に急いでしまうもの。資盛が父上と母上の為に急いでくれたこと、嬉しく思うぞ」
次に微笑んだ経子が言った言葉に、資盛は再び顔を上げた。


