だが茅野のそんな疑問は置いて、ドロイは鰓を手のように口許に添えて言った。
囁くような声だ。
「カローラはけちんぼ」
「聞こえてるわよー」
「わっ」
カローラがずいと顔を寄せると、ちゃぷんと水面を跳ねさせて、ドロイは水中に潜ってしまった。
悪戯好きの子供のような仕草に、カローラが笑う。
子供っぽくはあるが、実際のところ彼が何歳なのかは、誰も知らないらしい。
ハイギョは長生きだから、もしかしたら三津や鈴木よりもずっと年上ということもあり得るそうだ。
性別も、繁殖期に婚姻色が出ること、自分のことを『ボク』と呼ぶことなどからオスだと推測しているが、本当のところは定かでない。
生態が謎に包まれている原因として、圧倒的にデータが少ないことが挙げられる。
ハイギョ、特にソライロハイギョというドロイの仲間は非常に珍しく、飼育例や研究例はおろか、人前に姿を現すことだってごくごく稀なのだ。
ラビの話では、ドロイはこの動物園ができた頃からずっとここにいるらしい。
お喋り好きだが仲間が一匹もおらず、単独での展示をあまりに淋しがったために、開園して五年ほどで事務所へと引っ込めたのだそうだ。
翼のある生き物を放し飼いにして好き勝手に行き来させたり、園の目玉になること間違いなしの珍しい魚を、淋しがって可哀想だからという理由で客に見せるのをやめたり。
変な動物園、と、茅野は思っていた。


