水色に黄色の水玉が散ったマグカップを傾けてから、茅野はふう、と息を吐いた。
一仕事終えるとここで三人に混じってお茶を飲むのが、日課になってきている。
――いや、三人ではない。
もう一匹いるのだ。
ただし“彼”は職員ではなく、ただのお茶仲間だが。
「カヤノちゃん、おかえり」
「ただいまです、ドロイさん」
壁際から聞こえてきた声に、茅野は返事を返した。
丸いテーブルから少し離れたそこに椅子はない。
あるのは、バスタブだった。
かなり大きくて、しかも猫脚の。
大人が三人腕を広げてやっと囲めるかというくらいのバスタブには、水が張られている。
その縁から、ひょっこりと顔が覗いていた。
「ね、モリったらドロだらけだったよ。またヒヨコにおそわれたから、オフロにいってくるって」
「うん、そうなんです。条さんが助けてあげないから」
「ジョーはモリにイジワルするのすきなんだよ」
子供のような辿々しい口調と、どこかぼんやりとこもったような、高めの声。
聞いた感じではかなりぎこちない、幼い印象を受ける。
だがそれらは、“彼”が人間だった場合のみ言えることだった。
淡い水色の鱗に覆われた皮膚。
水玉模様はごく薄い黄色で、長い体に規則正しく並んでいる。
茅野が手にしたマグカップと、よく似た柄だ。
言葉を発するたびに、作り物みたいに大きな口がぱくぱくと動く。
「キョウのおやつはスズキがつくったマフィンだって。ボクにはくれないんだって」
「それはしかたないです。ドロイさん、魚ですし」
そう、茅野が表情一つ変えずに会話している“ドロイさん”は、魚だった。


