「鈴木さん、三津さんはどうしたんですか?」
「ああ、彼女ならあちらに」
ラビがツナギの袖から腕を抜きながら聞くと、鈴木と呼ばれた老人は、少し奥まった方を手で指した。
その方向には、給湯室がある。
「さっき条さんと森さんが帰ってきましてね。副園長と茅野さんが直に帰ってくると聞きましたので、お茶の用意をしに」
「ああ、……わざわざすみません」
丁寧に言う鈴木に、ラビが給湯室の方へ声を大きくする。
すると、「いいのよいいのよ」と言いながら、小太りの初老の女性が姿を現した。
彼女が三津(みつ)だ。
手にはトレイを持っていて、大きさのバラバラなマグカップを二つ乗せていた。
「はい、ラビくんにはカフェオレ、茅野ちゃんにはミルクティーね」
三津は、この動物園で唯一ラビを『副園長』『ラビさん』以外の名前で呼ぶ人物である。
ちなみに『カフェ』『ティー』『ガラス』など、茅野の知っているものと名前が共通しているものというのも、この世界には幾つもあった。
ドラゴンなどもその一つだ。
理由はわからないが、言葉も通じるのだからそれほど不思議なことでもないと、茅野は深く考えずに片付けている。
茅野は礼を言いながらカップを受け取って、勧められるままテーブルに着いた。
ラビは上半身だけティーシャツ姿になって、タオルで首筋の汗を脱ぐっている。
汗ばむくらい体を動かしていたのに、ニット帽は絶対に脱がないのだ。
茅野は彼の裸眼も見たことがない。


