その大きな建物の一階を占めているのが、いわゆる“事務所”だ。
小さな食堂や、付きっきりの世話が必要な動物がいる部屋や、駐車場に面した方には動物たちの餌を用意する倉庫があったりする。

その中でも正面入り口を入ってすぐのところにあるのが、デスクが並んだ広い部屋だった。
事務仕事や応接をする、だいたい常に人がいる場所である。

だが、そこでいつもデスクに向かっているのは、三人の職員だけだった。
この広大な動物園の事務作業を、たった三人でこなしているのだ。
しかも業務時間のほとんどを、デスクに座らずに隅の方にある休憩スペースで過ごしている。

ラビと茅野が事務所へ入っていくと、やはり三人はいつものように、隅の丸いテーブルを囲んでいた。
扉に背を向けていた一人が振り返って、にっこりと笑顔を見せる。


「副園長、茅野ちゃん、おかえりなさい」


ゆるく波打った亜麻色の髪が揺れる。
彼女が、さっき条と茅野の会話にも出てきていた、カローラだ。
面倒見がよく世話好きで、茅野に洋服のお下がりをくれたり、必要そうなものを森と二人で見繕ってくれたりした。

カローラの隣では、丸い眼鏡をかけた小柄な老人が、白い手でカップを傾けている。
彼はカップを置くと、口髭を撫で、広くなった額を撫でながら、言った。


「やあ、お疲れさま」
「お疲れさまです」


茅野は頷くように頭を下げる。
そして、見慣れてきた顔が、一つ足りないことに気付いた。