私の名前は桜木雪菜、高校1年生。名前は華やかだけど見た目に合ってない。
 まず、メガネにおさげ。最初はコンタクトだったけど、面倒くさがりの性格が祟ってどこかにいった。でも見た目がこんなに変わるとは予想していなかった。
 と、こんなネガティブ思考を繰り返している私にとって、「恋」というものは地平線の彼方にさえ見えないものだった、いや

 はずだった。

「桜木って暗いよな。」
「ああ。10秒と会話がもったことないからな。」
 と、男子どもは私が暗いことを笑っていた。まあ、笑い話になれるなら私もうれしいけど。
「なあ桜木ー。これ教えてくれよ。」
「ふへっ!」 
 私はガラにもなく変な声を出してしまった。でもそれは仕方ない。私は声をかけられることに慣れていないから。
「え?なんでそんなにおびえてるんだ?」
 あ、私震えてるんだ。
 今さら気づいてももう遅い。絶対変な人だと思われてるよー…。
 心の中でさらにネガティブ思考を積み重ねていると、声をかけてきた男子生徒がはっ、という音でも聞こえたかのように私の顔を凝視した。
「もしかして具合でも悪いのかっ?俺でよければ保健室に…」
 そういうとその男子生徒は私の手を引っ張り、返事を待たずに立たせていた。イスがこけた気がしたけどなんか混乱していて言葉も出ない。
「勝也ー!遅れるって言っといて!」
「あいよ。」
 その男子生徒に勝也と呼ばれた人は敬礼のポーズを送っているのが見えた。でも、次の瞬間一気に手を引っ張られて教室を横断したからそれは見えなくなった。
「我慢できる?まあ保健室はもうすぐだけどなっ。」
 いや、こんな全力で走られたら元気でも疲れるってーの。と、言いたかったが息切れ間際で声が出ない。
「よしっ。」
 そう言った男子生徒は保健室、と書かれた札を一瞬見てドアを勢いよく開けた。廊下にいた生徒数人はこちらを見て驚きの顔を見せたが、私たちが保健室に消えるとまたぺちゃくちゃと話し始めた。
「二宮先生っ!桜木が具合悪いんだって!」
 うん、私は言ってないけどね。
「まあ、桜木さんが?大丈夫?」
 まあって。というか私の名前も顔も知らないでしょうが。
「顔色は…あれ、赤いわね。熱かしら?」
「あ、本当だ。」
 走ったからだよ!
 でも男子生徒に疲れた様子は見受けられない。これが男女の体力差か…。
「あの、大丈夫。私、その、声かけられるのなれてなくて…。ちょっと驚いただけなの。」
 自分で言ってむなしくなってきたよ!
「もう…梅くんったら。誰でも保健室に連れてこないの!」
「すいませんー。」
 特に悪びれた様子もなく言った男子生徒のその言葉に、私はただ、「誰でも連れてきてたんだ」と思っているだけだった。
「でもこれから授業に行くのはいやだろうからここにいていいよ。私は出ていくけどね。」
 と、二宮先生は言った。そういえばさっきチャイムなってたな…。
「ありがとう、二宮先生。」
 お礼も十分に、満面の笑みを浮かべた男子生徒はそのまま手を振って二宮先生を見送った。
「なあ、一つ思ってたんだけどさ…」
 その男子生徒は私におもむろに言った。

「桜木って面白いやつだな。」

 私はその時胸で生まれた何かをかすかに感じ取った。