あたしに気を遣って少し遠くにいた美雪さんが、しばらくして
「じゃあそろそろいいかな?」
とあたしを呼んだ。
テーブルをはさんで向かい合う。
ジュースを一口飲んだあと、美雪さんがゆっくりと話し始めた。
「凛人の、事なんだけどね。まだちゃんと話してなかったから、話そうと思って」
「は、い……」
うるさいくらいに、心臓はバクバク速まる。
「ほんとはあたしから話すつもりだったんだけど、昨日凛人の机の引き出し開けたら、千尋ちゃん宛の手紙が入ってたの」
「えっ…?」
思いもしなかった言葉に、あたしは目を丸くした。
「だから、読んで欲しいの。凛人からの手紙」
「…はい……」
美雪さんに連れられ凛人の部屋に入った。
あったかい匂いが詰まった凛人の部屋。
「はい、これ」
美雪さんから受け取ったのは、真っ白でなんの模様も入っていない、シンプルな封筒だった。
手紙を持つ手が震えている。
「じゃあ」と美雪さんは部屋を出て行った。
1人だけの静かな部屋で、あたしの心臓は更に速く動く。
その場に座り、丁寧に封筒を開いた。
便箋も、真っ白でシンプルなもの。
あたしは、この時初めて、凛人の文字を見た。
『遠野 千尋へ』と書かれた文字は、男子とは思えないほどに整った綺麗な文字だった。
あたしは大きく深呼吸をして、ゆっくりと手紙を読み始めた。



