校門を出てしばらく歩いていると、頭から優しい声が降ってきた。
「…千尋ちゃん…?」
「……あ、美雪さん………」
そこには、穏やかに笑う美雪さんが立っていた。
「…千尋ちゃん…。よかった、生きててくれて…」
美雪さんからの思いがけない言葉に、あたしは息を飲んだ。
そんなあたしにはお構いなしに、美雪さんは笑う。
「…今から、家来てくれない?」
「えっ…」
理由は聞かされないまま、あたしは美雪さんに着いて行った。
「…おじゃまします」
「どうぞ」
凛人の家に来たのは、これで2回目だ。
懐かしい……
「あっ、そのソファー座っててくれる?」
「はい…」
ふと、リビングの隣にある部屋に目を向けた。
「…あ……」
天使の様に笑う凛人の遺影が、仏壇にあった。
………この笑顔を、もう見る事はできないんだ…
「……はい。オレンジジュースでよかったかな?」
美雪さんがジュースをあたしの前に置いてくれる。
「あ、はい。ありがとうございます」
お礼を言って、また仏壇に目を向けた。
それに気づいた美雪さんは、少し寂しそうに笑った気がした。
「…あの……いいですか?」
「いいよ。凛人も喜ぶし」
あたしは仏壇の凛人に向かって座る。
線香をあげて手を合わせながら、凛人に話しかける。
「…ごめんね凛人。あたし……強くなかった」
きっと凛人は「大丈夫だっつーの」って、笑って抱きしめてくれるだろう。
……あたし、まだ凛人に甘えてる。
いつも、こんな想像をしてしまうんだ。
こんな時、凛人はきっとこう言うだろう、とか。



