火の男の表情はわからない。なんせ顔も燃えている。見えるのは火にそよぐ髭だけ。少し間を空け答えた。

「本当です。性格には私(達)ですけどね。」

「最低。」

私はあらかじめ用意していた言葉をぶつけ、続ける。

「あなたから見た彼は悪人なのかもしれないけど、私はそう思わない。彼は私の目を治してくれた恩人であり、この山で一緒に暮らした友達だ。その友達を苦しめていたのがあなたなら、私は許さない。」

気のせいか、ナナシが一瞬霞んで見えた。風に揺らぐロウソクのように、揺らいで、今にも消えそう。

私はシーカーの事を思い出した。あれ以来、会話に出さず忘れた振りをしていたが、一時、私はナナシの事を怖がっていた。でも怖かったのはシーカーを殺したナナシじゃなく、あの力なんだ。
ナナシは渇いている、誰かに愛されたくて、愛し続けて欲しくて、いつも不安で仕方がないんだ。一向に潤わない心に、法力という才能が暴力を呼んでしまう。だから私はナナシから離れてはいけないと思った。…だけどさっき目が治った興奮で、変にナナシに伝わっていたかもしれない。私は彼の心がいつか潤うまで、渇きから解放されるまで一緒にいる気だ!

「ナナシが許すまで謝り続けて下さい。心から。その後二度と私達の前に現れないで。さ、今すぐお仲間も呼んで…」

その瞬間。ナナシの分身が私を抱え木の上にジャンプした。

「何、ちょっとナナシ!」

分身じゃない方に話かける。そうすると彼は少し笑って、まるで出会った頃の屈託のない顔をしてこう言った。

「消えるのはお前だよロズ。元気でな。」

彼はまた渇き人のそれで、眼前の火の男を睨んだ。私は分身に抱えられながら、その場を離れて行く。小さくなっていくナナシを見ながら泣いた。そして大きな声で一言。

「この裏切り者!」