ナナシはいつもの笑顔で言う。

「ロズ~ロズの好きなアカリの花って本当良い香りだな~。」

私の視力はもはや0だ。もう完全な闇の暮らしになって3週間になる。不思議な話だが、最近少しずつ目の見えない生活に慣れてきた。もちろんナナシが四六時中一緒にいてくれるし、移動なんかも法力で私を動かしてくれる。だけど、私自身転ぶ事も減ったし、何と言うか感が鋭くなった気がする。
よく5感の1つが失われると、残りの4感で穴を埋めようと異常に発達する事があると聞くけど、どうやらそれのようだ。加えて私は昔からもつ感の働きも相まって、最近1つの発見をした。
それが今のナナシの上機嫌へと繋がるのだ。

「ロズ…」

私の肩をポンと叩く。何を言おうとしてるかわかる、またいつものアレだ。

「1デナリは3シュケル。3シュケルは銀1枚と同価、じゃ銀30枚は何デナリかわかる?」

「う~んわかんない。」

「答えは90デナリだ!!!」

ナナシはどうやら商人だったようだ。彼が歩くとシャリシャリと音が鳴っていた事に最近気付いた。それは本当に小さな音で、彼自身も気付いてなく、腰に巻いてある巾着袋に特に関心もなくほうっておいた位だ。その巾着は商人特有の防音布で作られていて、いわゆる財布なのだ。私があんた商人だったんじゃないの?と聞いた時のナナシの表情は格別、凄かった。以来この面倒な問答が繰り返される事になった。

「いや~記憶の欠片を見つけただけでこの世界の変わりよう!ん~良い気分!」

「もう嬉しいのはわかったから!それで今日はどこ行くの?」

今日はいつもの河口で魚を釣る日課を止め、デカい葉に乗り北に移動している。

「いや今日こそアイツを捕まえるからさ、側にいてもらおうと思って!」

「あいつって?」

「シーカー!」