今年一番走ったんじゃないかと思うくらい
私は病院に走った。


「…ハァハァ…すいません…。…ハァハァ…祖母は…??」

「あ!!斉藤さんのお孫さんですか!?斉藤時子さんなら4階の407号室です。」

「あ、ありがとうございますっっ!!」


私は急いでおばぁちゃんの
病室へ向かった。


「おばぁちゃんっ!!」


病室に入ってそこには
たくさんの管につながれた
おばぁちゃんの姿と
タオルで目頭を押さえている
母の姿があった。

「おばぁ…ちゃん…??」

私は体に残っている
わずかな力を振り絞って
おばぁちゃんに近づき手を握った。

「ねぇ、おばぁちゃん??なんでこんなところでねてるの!?ねぇ、おばぁちゃん。おきてよ。ねぇ、いつもみたいにご飯作って待っててよ。笑香、お帰りって笑顔で言ってよ!!ねぇ!!ねぇーー!!」

私の目から涙がとめどなく
落ちていった。

すると握っていたおばぁちゃんの手が
かすかに動いたように感じた。

「おばぁちゃんっ!?」

「…笑…香…かい…??」

「私だよ、笑香だよ。」

「また…泣いてるの…かい…。笑香は…本当に…小さいころから…泣き虫だね…。」

そういいながらおばぁちゃんは
いつも私に見せてくれる
優しい笑顔で微笑んだ。

「ばぁちゃんな…そろそろ迎えが来たみたいや…。」

「何…言ってる…の…??」

「そうよ、お母さん!」

「笑香…母さんな…忙しくてな…全然笑香のこと…かまってやれんと思うけどな…でも…あんたのために…一生懸命働いてるんや…。わかっておやり…。」

「おばぁちゃん!!なんでそんな弱気なのっ!?」

「幸子…。たまには笑香と…出かけてやりなさいよ…。」

「お母さん…。」

「二人とも…。今まで迷惑ばっかかけて…邪魔な老人で…ごめんな…。」

「そんなことないっ!!おばぁちゃんっ!!家帰ろう!!」

「笑香…。笑って生きなさい…。」

「おばぁちゃんっ!!」

「今まで…ありがとぉ…。」

― ピー ―

「おばぁちゃーんっ!!!!!!!」


私の握っていたおばぁちゃんの手が
力なく落ちた。

病室には私の泣き声と
お母さんのすすり泣きの声
あとはむなしく医療機器の音が響くだけだった。