『悠は、お兄ちゃんなんだからな!!』

『お兄ちゃんなんだから』

どんなシチュエーションでも、この言葉の魔力に負けていたのだ。

気づかないフリをしているだけで、負けていた。

誰に?

父親に?

弟に??

違う。

自分に…だ。

『お兄ちゃんなんだから』

良かれと思い、してきた事が、そうならなくなってきたのは中学に入った頃からだ。

努力をしている姿を見せるのが嫌だった。

なるべく、ちゃらんぽらんな風を装った。

昔は仲よかったのに。

どうして、こうなった…。

俺は、どこで選択肢を間違えたのか…。

弟に対して、ライバル心があったのか?

いや、それはないと思いたかった。

あいつは誰もがわかるような努力を重ねていた。

そんな弟のことを、兄として誇らしく思っているくらいだ。

じゃ、なにが??

『お兄ちゃんなんだから』

なんだよ。

だったら、なんだって言うんだよ??!!

弟の見本になるしかねーのか?

それが、狂いの原因か??

悠は自分なりに、弟の見本、手本になるように知らないうちから、弟を守り、助ける兄になっていたのに。

それを、やればやるほど、弟は泣いた。

そして、また言われるんだ。

『お兄ちゃんなんだから、弟をなかせないの!!』

母は、亡くなるときにも言った。

『お兄ちゃんなんだから。って、言いすぎたね。ごめんね』

今更か??

俺が、ずーーーっと、

お兄ちゃんとして悩んで、考えて苦しんだ長い時間を

たったそれで終わらせるのかよ…。

悠も気づいてはいたのだ。

泣けば済む。

そんな弟が、本当に。

本当に、心から羨ましかったんだ。

何かをして、怒られても。

『ごめんなさぁぁぁい!!!』

すぐに泣きわめく弟。

そして、それをすぐに受け入れる父親と母親。

周囲。

涼が泣けば泣くほど。

悠は仕返しをしていた。

俺は絶対に、お前にこの壁を越えさせない。

心のどこかに、そんな気持ちと、実際にそうなる優越感が全くなかったと言い切れない。