後ろから襲われている態勢。

『やめてもらえますか?』

最初は冷静に、言った。

彼はやめるどころか、遥の首筋に自分の頬を、押し付けてきた。

『いい匂い…』

『や、やめてって言ってるでしょっ』

彼の動きがとまったかとおもったのだが、そうではなかった。

後ろから、右手首をおさえつけられていたのだがその手首と腰ごと、逆側にさせられた。

彼と真正面に向き合う。

じっと、顔を見つめてくる。

怖い。

『やめてよっっ!!』

彼は、そのまま遥にキスをした。

とても、短い時間だったのに、とても、長くかんじた。

なせだか、涙が出てきた。

『わかってんだろ?知らない男んちにノコノコくるって事は?』

やっと、解放された遥は、荷物を片付け

玄関を思い切り飛び出した。

走った。

駅までも。

駅からも。

全力で走って、自分の部屋についた。

なんで、こんなことされなきゃなんないわけっっ!!!??

『わかってんだろ。知らない男んちにノコノコくるって事』

わかるかっっ。

私は勉強を終えに行ったんですっっ!!!

半年前までは遥はファミリーレストランでアルバイトをしていた。

決まって。

『おぅ。夜だぁー』

と、入ってくる男たちの向かう席に、一人の少年が先に座って、タバコを吸っていた。

『アサダ』

『ヨルダ』

くだらない、会話だった。

深夜なのに、朝だ。

とか。

かと思えば、昼間なのに夜だ。とか。

彼らの仲間内で盛り上がってる、ブームのネタなのだろうと思っていた。

ある晩、急なシフトの変更で、いつもは働かない2時過ぎの深夜のシフトにはいることがあった。

この時間帯は、調理場に男性が一人と、オーダーに女性が一人の勤務帯。

客数は少ないので、困ることはなかったのだが、客の質が悪いと噂だった。

殆どが、飲み屋から流れてくる客。

『お待たせ致しました。和風ハンバーグのセットと、ミートラザニアのセットです』

二人の酔っぱらった男の若い客は、少しして

ウェイトレスの遥を呼びつけた。

『いかがなさいましたでしょうか?』

『あのさぁ、これ、みえないの??』

『はい。あ。申し訳ございません。作り直してまいります』

『いやいやいや!ちょっと。ちょっと』

『おねぇさんさ、これ、なに?』

ニヤニヤ薄ら笑いをしながら男達は絡んできた。

『髪の毛ですね。本当に申し訳ございません』

遥は、食器をさげてその場を立ち去ろうとしているのに男達が絡んでなかなかたちされないでいた。

『これさ、か、み、の、け?なの????』

それは、確かそうでなかったのかもしれない。

きっと、いたずらにこの二人のどちらかがわざと混入させたのだ。

『そうだと思います』

『ヘェー。おまえ、これ髪の毛にみえる??』

『いやぁ、どーかな。どっちかっていうと』

悪ふざけが止まらない。

『すんませーん!こっちも!!!!』

喫煙席の奥から、遥を呼ぶ声が聞こえた。

なに??

遥は、奥の席へもむかった。

『あのー、こっちもなんだよねぇ』

『あ、すみません!!申し訳ございません!』

彼の皿には、何もなかった。

『これ、みえないの??ねぇ、ちょっとさぁ。まぁいいや、作り直してきてよ』

彼はなにも乗ってない皿を彼女に差し出すと、シッシッと、手でキッチンの中に追いやった。

何かをコソコソ相談し、また、テーブルの上の呼び鈴を鳴らし二人組みの男達は遥を呼びつける。

遥はいそいで、男達の所にもどると、食器をさげる。

『おいっ、ちょっと待てよっ』

『まあまあまあまぁ。どーしたんすかぁ、おにーさん達もなんが入ってたんすか?』

奥の席から、一人の少年?青年が、二人組みの男の席にやって行く。

『あーーーら。これ、髪の毛じゃないねぇ。はははは。やばっ。これはやばいねたしかに』

『なんだよ、オマエは??』

『あ、オレ?アサダ』

『ああー????!!ふざけてんのかよ。夜中だろうが、ばあかが』

『うーん、まぁ、本当なんだけどね。ま、夜中ちゃー、夜中だもんねぇ』

『で、なんなんだよ、てめぇは』

『まぁ、とにかく、変なもん入ってたなら作り直してもらいましょーよ。俺の先やってもらってるから、すんませんね。お先』

キッチンの影の方から、その様子を見ていた遥とバイトの男の子。

なにやら、片方の腕を触られた方の男が席をたった。

そして、もう一人を急いでつれだす。

なにが起きたのか??

とにかく、この青年がなにかは、したのだ。

夜中に、アサダという青年。

『どーもー』

青年は席にもどると、タバコに火をつけて、ソファに深く腰を降ろした。

遥、彼の席へ戻ると、

『ありがとうございました!』

『ん?あー。はい』

大学受験の参考書。

右上に、Y. Asadaの文字を見つけた。

アサダって、名前だったんだ。

『あ。俺の作り直さなくていいからね』

参考書をめくりながら、アサダ青年は難しい顔をしていた。