負けたくない。

涼を突き動かしてきたのは、ただそれだけだった。

幼くして、母と死に別れてからは父は二人の双子の世話をしながら一生懸命に働き、一代で成り上がった男。

『すごいねぇ!さすが、お兄ちゃん!』

『やっぱり、お兄ちゃんは違うね!』

ちょっと、まってくれよ。

僕だって、頑張ってる。

お兄ちゃんより、頑張ってる。

努力してるんだ。

運動会でも、テストでも。

いつも、僕はお兄ちゃんの次。

頑張ってるのに。

なにが?

何が、お兄ちゃんと違うんだ…。

あんなに、自由に遊んでいるお兄ちゃんに、

なんで、僕は簡単に負けてしまうのか?

小さい頃は違った。

小学校までは本当に仲の良い兄弟だ。

最初の屈辱は、中学生で初めてのテスト。

兄はテスト勉強もろくにせずに、遊び回りだした頃だった。

「お、ちゃんと勉強してるな?あれ、悠は?」

「お父さん。おかえり。お兄ちゃん、いないんだよ」

「まったく。あいつは。涼は偉いな」

そんな風に褒めてくれた父も。

いざ、テストの結果がわかると。

『やっぱり悠は凄いな。いつの間に勉強してたんだ?』

本当にいつ勉強をしていたんだょっ。

僕は寝ないで、必死にやってるのに。

遊びもガマンして、好きなこともガマンして。

『すげーな。浅田』

『どっち?』

『上の方』

『あいつ、天才かよ。いつやってんだよなぁ』

そんな、声がテストの度に涼の耳にも入るようになる。

たった、数点の差は半年が経つ頃には十数点と開くようになっていた。

とにかく、涼はひたすら勉強した。

ひたすら。

その間も悠はのんびりとマイペースにあそびながら暮らしていた。

『おい、浅田、陸上で都大会えらばれたらしいじゃん??』

『どっち?』

『上だよ。下は勉強しかできねーじゃん』

『ま、その勉強も負けてるってゆーやつ?』

『はははは!!!』

悠は悪気わないのかもしれないが、周囲はそうではなかった。

周囲の態度に、輪をかけて、悠の悪気ない態度が涼を更に苦しめた。

『涼、おまえ、最近暗くない?』

『別に』

『ならいいけど。メシ食おうぜ』

『いらないよ。腹減ってないんだ。お休み』

自分の方から兄を避け出したのだ。

恐らく、悠もそれに気付き始めた。

中学1年の終わりには、二人の会話がほとんどなくなった。