親友を好きな彼



水の流れる音がする…。

「う…ん」

どうやら、大翔が戻ってから眠った様で、すっかり空が白んできていた。

「6時…」

一時間は眠っていたのね。

重たい瞼を開けると、隣で眠っていたはずの大翔の姿はなく、代わりにバスルームからシャワーの音が聞こえてきた。

水の流れる音は、シャワーだったのね。

ベッドから降り、まだボーッとする頭でソファーに座りこむ。

大翔は何て言う?

怖い。

また、いろいろな事がはぐらかされるのか。

そう思うと、緊張してきた。

すると背後から、

「あ、由衣。起きてたんだ。おはよう」

大翔の声が聞こえてきた。

どこかぎこちないけれど、いつもの明るさを作ろうとしているのが分かる。

ゆっくりと振り向くと、濡れた髪のままの大翔が立っていた。

「おはよう。髪、乾かさないと風邪引くよ?」

そう言うと、大翔はバツ悪そうな笑顔を向けた。

「そうだな。乾かすよ。このまま仕事ってわけにもいかないからな」

そうよ。

今日だって仕事なのに、たった一時間眠っただけで行くなんて。

そんなにゆうべは、大事な事だったの?

「ねえ、大翔。昨日は仕事が忙しかったのね?」

ドライヤーで乾かす大翔に、出来るだけ平然と言った。

「ああ…。ちょっとね。そうだ、ごめんな。心配させたみたいで」

「ああ、いいのよ。こっちが勝手に電話をしただけだから」

やっぱり、着信には気付いてくれたよね。

かけ直せないくらい後に気付いたのか、それとも気付いていたけれど出られなかったのか。

どっちだったの?

「今日は、早く帰れそうなんだ。由衣は?」

「あ、私も大丈夫かな?」

すると、ドライヤーを止め、大翔は笑顔になった。

「夜、メシでも食いに行こう。由衣の好きなところに行くから」

「う、うん!」

ゆうべの事は、大翔なりに悪いと思ってくれているのか、こうやってフォローをしてくれるのは大翔らしい。

だからといって、心が晴れるわけじゃないけれど、大翔が私の事を考えてくれているのが分かって嬉しかった。

「じゃあ、仕事のキリがいい時に連絡するね」

優しく頷く大翔を見て、もうしばらく信じてみようと思った。

ゆうべの事は、何かの勘違いかもしれないし、大翔の事まで疑いたくない。

そう思うから…。