親友を好きな彼



「ただいま…」

いないと分かっているのに、大翔の家へ戻ってきた。

電気を点けても、一人きりの部屋は寂しくて、テレビをつけても孤独を感じてしまう。

結局、今日一日、あれから聡士と話す機会はなかった。

帰り際に少し顔を合わせたけれど、逃げる様に帰ってきてしまったのだった。

「やっぱり、一香と会ってるんだろうな」

いつの間にか22時になっている。

ご飯を一緒に食べて、そこで相談を受けているの?

一体、いつになったら帰ってきてくれる?

コンビニで間に合わせた惣菜も、ほとんど手がつけられず、早々にベッドへと入った。

枕に顔をうずめると、大翔の香りがする。

聡士はつけるのをやめちゃったけれど、大翔はあの香水をずっとつけているからか、ほんのりとベッドから香るのだった。

聡士のベッドで大翔を思い出し、今度は大翔のベッドで聡士を思い出すなんて。

フラフラしていると言われて当然かも。

「大翔、早く帰ってきてよ…」

それを呟いたのを最後に、いつの間にか眠っていたみたいで、次に起きた時は日付が変わってから2時間も経っていた。

だけど、隣に大翔の姿はない…。

「まだ、帰っていないの?」

何で?

こんな時間まで帰らないなんて、いくらなんでも遅すぎる。

友達と飲み会とかじゃないのに。

一香と会うのに、ここまで時間が必要なの?

すっかり眠気が吹っ飛び、携帯を眺めてもメールも着信も入っていない。

「電話、してみようか…」

仕事が長引いているの?そんな質問をしても、おかしくないよね?

心配だったと言えばいいよね?

緊張で震える手を抑えながら、大翔に電話をする。

ワンコール、ツーコール…。

どんなに待っていても、大翔は出てくれない。

どうして?

何で、出てくれないの?

そして、とうとう留守番電話に繋がってしまった。

「あ、由衣です。仕事が遅いみたいで、心配だったから電話をしました」

それだけのメッセージを残すだけで精一杯で、急いで電話を切った。

電話くらい、出たっていいじゃない。

それとも、やっぱりやましいことがあるから出れないの?

こぼれ落ちる涙で、枕が濡れていく。

聡士の言うとおり、見える部分しか見ないからこうなるの?

どうして皆、一香がいいのよ。

私の何が悪いの?

分からない。

分からないよ…。

携帯を握りしめ、かけ直してくれる事を待っていたのに、結局かかってはこなかった。

その夜、もちろん眠れるはずもなく、ひたすら目を閉じているだけだった。

そして、大翔が帰ってきたのは5時。

もう、明け方になっていた。

シャワーも浴びず、ベッドへ入った大翔から匂ってきたのは、いつか聡士のベッドからも匂ってきた一香の甘い香水の香りだった。

二人には、何かがあった。

それには間違いない。

何があったの?

何をしていたの?

教えてよ…、大翔。