オフィスに戻った時には、みんなも自席に戻っていた。
そして、聡士もデスクへ戻っていたのだった。
噂になっている事は知っているのだろうけれど、普段と変わらない雰囲気だ。
「あ、佐倉。どこに行ってたんだよ。プロジェクトの最終打ち合わせしようぜ」
資料を見せながら、聡士はしかめっつらをした。
「うん。会議室、行こうか?」
さっきまで、聡士が上司といた場所…。
「ああ、そうしよう」
ぎこちない私とは反対に、聡士は何てことない顔で席を立つ。
二人きりなら聞けそうだ。
会議室へと入ると、一番に聞かずにはいられなかった。
「聡士、海外勤務の話を聞いたんだけど本当?」
すると、椅子に座りながら聡士は淡々と答えたのだった。
「ああ。聞いた?お蔭さまで、華の海外勤務だよ」
「じゃあ、決定なんだ…?」
「当たり前だろ?俺だって仕事をするからには、上へ行きたいさ」
資料に目を通しながら、聡士はペンでチェックを入れている。
「だから由衣、このプロジェクトは絶対に成功させたいんだよな」
「え?」
「会社をあげての一大イベントなんだ。評価も上がるだろ?」
「うん。分かる…」
「だから、協力して欲しいんだ」
協力って、今までも一緒にやってきたのに、何でそんな事を言うのだろう。
「そんな、今さらじゃない」
そう答えると、聡士は鼻で笑ったのだった。
「大翔とうまくいってるんだろ?公私混同だけは、やめてくれって事だよ」
「それは、大丈夫よ!」
痛いところを突かれたみたいで、動揺してしまう。
それに、まるでバカにする様な言い方で、傷ついている自分がいた。
もう私との関係なんて、聡士の中では完全になくなったんだ。
それは、自分も望んだ事なのに、何かを一つ失った気がする…。
「由衣がそう言ってくれるなら安心だ。ほら、早く最終調整しようぜ」
「うん…」
向かいに座り、資料に目を通しながら思った。
一緒の仕事は、これが最初で最後なんだろうと。
もう仕事上ですら、私は聡士に必要とされなくなるんだ…。

