「もうすぐ春か来るとは思えな~い…」

「どうしたの由衣?」

暖かい午後、仕事の合間に亜子を掴まえ、ランチをお願いした。

イタリアンの店で、進まない食欲にため息が漏れる。

空気は暖かくなり、街のショーウインドーもパステルカラーが増えてきた。

それなのに、私の心は灰色の冬真っ盛りだ。

「聡士だけが問題じゃなかったの」

「え?」

怪訝な顔をする亜子に、琉二の事を含め話をした。

「信じられない…。そこまで一香と繋がっているの?」

呆気に取られた亜子は、開いた口が塞がらないらしい。

「私はね由衣。聡士くんの事は、女慣れしてそうだし、快楽だけに流されて欲しくなくて、助言したつもりだったの」

「うん…。分かるよ」

「だけど、そこまで複雑な関係だとは思わなかったわ」

亜子は水を少し飲むと、私を優しく見た。

「琉二って人、由衣の話からしてみれば悪意はないと思う」

「琉二が?でも、何だか面倒臭い人よ」

ため息をつくと、亜子は苦笑した。

「これは、あくまで私の想像。たぶんね、大翔くんも聡士くんも、琉二くんには話しをしているんじゃないかな?」

「話?それって、どういう事?」

「つまり、恋愛関係の事を。ちなみに一香もだと思う」

「要するに、琉二なら、みんながお互いに話をしていない事情を、知っているって事?」

すると、亜子は頷いた。

「そういう事。だから、みんなの気持ちを一番知っているからこそ、由衣に意味深な言い方をしたんじゃない?」

そう言われてみれば、一香が前に、琉二は恋愛抜きで付き合えるって言っていたっけ?

もしかすると、あのグループの中では、中立的な存在なのかもしれない。

「そしてね…」

考え事をしていた私に、亜子は身を乗り出して言った。

「きっと、みんなの中心には由衣がいるのよ」

「私が!?何で?」

中心って、むしろあのメンバーの中では、私は新参者よ?

それが中心って、亜子は何が言いたいのだろう。

「みんなの恋の全てに、由衣が絡んでる。やるじゃない」

「ちょっと、楽しんでない?」

軽く睨むと、亜子は肩をすくめた。

「ごめん。だけど、きっと間違いないと思うのよ。もう少し、みんなの気持ちが分かったらいいわね」

と、そう言われたのだった。