「飲んだ、飲んだ」

誰より楽しそうに店を出たのは琉二で、何も知らない聡士と一香も談笑しながら店を出てきた。

「あっ、そうだ。由衣の連絡先を教えて?」

琉二は携帯を取り出すと、それを私に見せる。

「うん…」

頭の中は、さっきの聡士の言葉でいっぱいだ。

ほとんど無意識に、琉二と連絡先を交換すると、

「連絡するね」

と言われたのだった。

連絡って、また意味深な事を言うつもりなんだろうな。

でも、琉二は何かを知っている様だし、やっぱり一香が何かに絡んでいる。

というか、聡士も一緒に…。

それを知らないでいるのは、無理な事なのかもしれない。

でないと、誰もかれもを疑ってしまう。

大翔を忘れるって何?

あの言い方だと、まるで一香が大翔を好きみたいじゃない。

そんな話、一度だって聞いた事がないのに。

大翔からだって…。

「どうした?由衣、元気ないじゃん」

俯き加減の私に、聡士が顔を覗き込んできた。

その瞬間、一香とのキスを思い出し、思わず顔をそらしてしまった。

結局、一香が好きであんな事をして。

聡士の事なんて、もうどうでもいい。

だけど、こうやって近くに居られると、どうしても振り回されてしまう。

「由衣?」

怪訝な顔をした聡士に、それでも顔を合わせられないでいると、

「由衣!」

私を呼ぶ大翔の声が聞こえた。

「おお、大翔!」

琉二が真っ先に大翔に駆け寄った。

「どうしたんだよ、お前」

「仕事が思ったより早く終わってさ」

スーツ姿の大翔は、笑顔でこちらへやって来た。

「大翔…」

もう、泣きそう。

大翔まで、一香とどんな関係なの?

意識的に一香に目をやると、笑顔で大翔へ近寄った。

「来るなら来るって、連絡してよ」

「ごめん。店は聞いてたから、少し覗こうと思ったんだよ」

二人の笑顔を見ていると、もう苦しくて仕方ない。

一香、どこまで邪魔をするのよ。

聡士も大翔でさえも…。

「大翔、早く帰ろうよ!」

気が付くと、一人離れた場所で、大翔に向かって叫んでいた。

それに驚いた様に、大翔と一香、それに聡士がこちらを見た。

空気を壊しているのは承知だけれど、これ以上ここに居たくない。

私だけ、入れない空気を感じてしまうから。

大翔の彼女だったのは私なのに、聡士とも体を重ねたのに、一香とは友達なのに、それでも一人だけ関係のない人間の様に思えてしまう。

「由衣さ、少し酔ってるみたいで調子が悪そうなんだ。早く休ませてやってよ」

そう助け舟を出してくれたのは、琉二だった。

「そうだったのか?大丈夫?」

心配そうな顔で、大翔は私の側へ駆け寄った。

「帰りたい…」

「分かった。帰ろう」

優しく肩を抱いてくれた大翔は、三人に簡単に挨拶をすると、タクシーを呼びとめた。

聡士と一香をまともに見られず、そのまま大翔に体を預けると、力無くタクシーに乗り込んだのだった。