「帰り、遅くなるなら俺の家に帰ってきていいから」
「うん。ありがとう。そうするね」
携帯を切った途端、聡士が嫌みたらしく話しかけてきた。
「大翔からかよ?」
「うん。今夜飲み会が遅くなる様なら、大翔の家に帰ってきてもいいって」
こっちは何とか距離を置こうとしているのに、どうしていちいち突っ込んでくるのだろう。
「優しいとか思ってるだろ?」
「いけない?」
「いけなくないけど、勘違いだろ?お前の浮気防止。自分の家に帰らせれば確実だもんな」
「何よそれ!?聡士じゃないんだから、そんなつまんない事考えないわよ」
まったく、だから待ち合わせは一人が良かったのに、聡士がついてきたんだからうんざりする。
今日は楽しみにしていた一香の飲み会。
18時に駅前で待ち合わせ…になっているのだけれど、何だかんだと聡士に丸め込まれ二人で待っているのだ。
さすが週末ということもあり、人が多い。
急ぎ足で歩く人にぶつかりそうになり、聡士が慌てて私の腕を掴んだ。
「ボーッとするなよ。危ないだろ」
「ありがと…」
面倒くさいかと思えば、こんな事をする。
聡士もたいがい振り回す人だ。
「早く、来ないかな。一香…」
「そんなに俺と二人きりが嫌なのかよ」
「そ、そうじゃないけど」
かなり、そうだけど…。
それにしても最初の頃と違って、一香に会うとのいうのに、聡士によそよそしさがない。
「あれ?聡士、香水やめたの?」
ふと、大翔とお揃いの香水の匂いがしないのに気付いた。
そうか、さっき腕を掴まれた時、何か変だと思ったのはこれだ。
「ああ。あれ、大翔とお揃いだからな。キモイ」
「ふ~ん。今までつけてたのにね」
意地悪く言うと、聡士が睨んできた。
「お前、自覚ないんだ?」
「え?」
自覚?
何の自覚だと言うのよ。
また、意味無く突っかかられたと思い、適当に聞き流す。
すると、聡士は言ったのだった。
「お前から匂うんだよ。あいつの香りが」
「匂う…?」
「大翔の香水が。今週、ずっと会ってるんだろ?」
そう指摘されて、言葉を失った。
いちいち気づかれたくらいで、ショックを受けてどうするんだろう。
合鍵だって見せびらかしておいて、距離を置こうとして…。
それなのに、知らないところで大翔との事を気づかれるのは、なぜだか嫌に感じてしまう。
「だからやめた」
「私から匂うから?」
「とういか、俺と何かあると思われたら迷惑だから」
「あ…、そうよね」
胸が痛いというのは、こういう事を言うのだろう。
ズキンと胸の奥底が痛い。
「だったら…、こうやって二人になるのも極力避けようよ…」
そう言った時だった。
「由衣~!聡士~!」
人混みをかき分けて、一香が手を振りやって来たのだった。

