「嶋谷くん、早く行こう」

「ああ、ちょっと待って」

次の日、何事もなかったかの様に、私たちは仕事をこなしている。

そして、大翔とのアポに出かけるところだ。

聡士は午前中はずっと出払っていて、お陰で変な空気を感じることもなかったのだった。

ゆうべは、朝まで一香と一緒だったのかとか、どうしても考えてしまうけれど、その度に大翔の事を思い出していた。

「俺さ、終わったら別アポがあるんだ。だから車で行きたいんだけど、佐倉も乗っていくだろ?」

淡々と言う聡士に寂しさを感じつつも、これでいいと言い聞かせて頷いた。

「お願いする」

カバンを取り、急ぎ足で会社を出たのだった。

駐車場に停めてある社用車に乗り込むと、聡士はアクセルを思い切り踏み込んで車を発進させた。

「ちょっと聡士、もう少し安全運転してよね」

思い切り前のめりになり、シートベルトが体に食い込む。

「悪い。早く行きたいかなと思ってさ」

ハンドルを握り、嫌味たらしい言い方ったらない。

何か言い返そうかとも思ったけれど、毎回この手に引っ掛かり、聡士のペースに乗らされることに気づいてやめておいた。

市街地の混雑した道路を抜け、ホテルへ着くと聡士は2歩早く私の前を歩く。

本当に態度に出る人だ。

昨日、関係を終わらせようと言ったことが、そんなに腹の立つ事だったのか。

だけど、もうそんな事はどうでもいいい。

今夜は大翔に会うんだから。

「よお、聡士」

大翔がロビーへ出てきて、愛想の良い笑顔で迎えてくれた。

だけど聡士は全く表情を変えずに、無愛想に言ったのだった。

「早く打ち合わせしようぜ。俺、スケジュールが詰まってるんだ」

「そうか。じゃあ早く済ませるよ。由衣は?」

「あ、私は今日はないから…」

大翔と会う為に、あえてアポを入れていないのだ。

「じゃあ、もし時間に間に合わなければ、由衣と続けてればいいな」

「うん…」

大翔の言葉には、どこかトゲがあるというか、わざと挑発的な言い方をしている気がする。

「いいわけないだろ?俺だって責任があるんだ。無駄口たたく前に、さっさと始めようぜ」

睨むように大翔を見て、聡士は会場へとさっさと向かった。

その後ろ姿を、大翔は意味深な笑顔を浮かべて見ていたのだった。