今頃、聡士は一香を抱いているの?

電話を切って、頭をよぎるのはその事ばかり。

でも、もう考えるのはやめよう。

部屋の窓から夜空を見上げた時、携帯が鳴った。

それは大翔からで、私は急いで出たのだった。

「もしもし!」

何ていいタイミング。

大翔にちゃんと言おう。

真剣に考えるからと。

それから、一香の事も。

「どうしたんだよ。そんなに慌てて」

小さく吹き出した様に言われて、つい恥ずかしくなる。

「あ…、だって…」

この前出られなかった事が、ずっと気になっていたから。

大翔はどもる私に、笑いを堪える様に言ったのだった。

「安心したよ。今度は出てくれて」

「やっぱり、気にしていたんじゃない」

膨れた様に言うと、大翔はさらに笑った。

「そうじゃないよ、ごめん。ただ、ちょっとコールしてる間緊張したからさ」

同じ会話でも、大翔とは安心感を持って話が出来る。

そして懐かしい…。

「今大丈夫だったか?」

「大丈夫だよ。あのね大翔。話したい事があるの」

聡士との関係だけは隠して、一香と友達である事、それから大翔との事をもう一度真剣に考えたいと伝えたのだった。

すると、大翔は少しだけ間を置いて言った。

「ありがとう。一香と友達なのは薄々気付いていたよ」

「そうなの?」

「ああ。聡士と仲が良さそうだったし…。それに会社が一緒だったんだよな」

やっぱり、仲良さそうに見えたんだ。

だけど思った通り大翔は、だからと言って、一香に聞いたりとかはしていないらしい。

「一香がね、みんなで集まる時においでよって言ってたの」

半分、冗談でそう言うと、大翔は優しく言ったのだった。

「そうだよ。おいで。次は一緒に行こう」

「えっ?」

付き合っている時は、一度も友達には会わせてくれなかったのに。

「いいの?」

「いいよ。そもそも、聡士も一香も知り合いなら、由衣が来ない理由はないだろ?」

「うん…。ありがとう」

別れて二年。

初めて、大翔の“世界”に入れた気がする。

これでいい。

こうやって聡士を忘れていこう。