「まだ?」
ポカンとした顔で、大翔は私を見ている。
意味が飲み込めないらしい。
その反応にますます焦った私は、弁解する様に言ったのだった。
「そう、“まだ”。結婚に踏み切る自信がなくて、そう言っただけだったの…」
「そうだったのかぁ。今さらだけど、少しホッとしたよ」
ため息をつくように、深く息を吐いて大翔は苦笑いをした。
だけど、私は全然良くない。
待ってよ。
だって、大翔が別れたかった理由は、『私と未来を見る方向が違ったから』だったはず。
好きだから別れたいって。
一緒にいるのが辛いからって…。
私が大翔を、結婚相手として見ていないって思っていれば、そう考えるのは自然。
もしかして私たち、誤解が元で別れたの…?
「大翔、私…」
「ん?」
本当は別れたいわけじゃなかった。
あの頃の生活を失うのが怖かったのと、変わる勇気がなかっただけ。
そう言いかけて飲み込んだ。
それを今さら言ってどうなるの?
やり直したいの?
聡士への気持ちもフラフラしているのに、大翔へそんな事は言えない。
「ううん。何でもない」
小さく首を振る私に、大翔は優しい笑顔を向けると、「車へ戻ろうか?寒いな」と言ったのだった。
それからすぐに、大翔は車を走らせ、私の家へと向かい始めた。
「この二年間、由衣を忘れ切れなくて、再会出来た時は心底嬉しかったよ」
ハンドルを握ったまま、大翔はそう呟く。
「大翔…」
私だって、大翔から貰った指輪を捨てきれなくて、未だに持っているのに。
「だから、さっきはキスしてしまった。謝らないからな」
茶目っ気に言う大翔に、どこか救われる。
この二年間、そんな風に思ってくれていたんだ。
そう考えると、胸が締め付けられる思いだ。
もっともっと一緒にいたい。
それなのに、車はあっという間に家へと着いた。
別れが名残惜しく、なかなか助手席のドアを開けられないでいると、大翔が真面目な顔で言ってきたのだった。
「由衣は、他に好きな奴がいるんだろ?」
「どうして?」
鋭い指摘にドキッとする。
「何となく分かるよ。でも…」
「でも?」
「もう一度やり直せないか、考えてくれないか?」