浮かれていたのかも…。

恋人もいなく、周りの同級生は結婚という“幸せ”を手に入れていく中で、どこか取り残されて虚しかった。

そんな時、聡士と出会ってあんな事になって…。

愛されているわけでもないのに、その気になっていたのかもしれない。

だけど、一香と聡士の思わぬ関係に、現実を思い知らされて…。

夢は覚めたのよ。

「おい、佐倉。勝手に行動するなよな」

今度のプロモーションでお世話になるホテルのロビーのソファーで、ため息をつきながら座っていると、しかめっつらの聡士がやって来た。

「だから、ここで待ってたんじゃない。支配人に会うのよね。行こう」

約束の15時前に、一人でここへやって来た。

聡士との時間は合わせられたけれど、出来るだけ二人きりになりたくなかったからだ。

「なあ、佐倉。一体どうしたんだよ。俺はまるで納得出来ないんだけど」

立ち上がった私の隣に並ぶと、聡士は小さな声で問いかけてきた。

だけど、それは気にしない振りをして、さらに歩調を速める。

「さっきも言った通り。聡士との関係は、なかった事にしたいの」

「佐倉…」

聡士が何かを言いかけた時だった。

「嶋谷さんに佐倉さん」

支配人が声をかけてきた。

振り向くとそこには、今ちょうどスタッフルームから出てきた支配人、有坂(ありさか)さんが笑顔で立っていた。

確か40代半ばの人で、二人の娘さんを持つパパだ。

180センチの長身に、オールバックのヘアスタイル、適度なシワの深さなど“大人の男”な雰囲気を醸し出している素敵な人なのだ。

いつも落ち着いていて、それでいて明るい。

毎回会うたびに、こういう人が理想だと思わされる人だった。

「有坂さん、今日はよろしくお願いします」

仕事モードに入った聡士が、負けずとも劣らず、笑顔を有坂さんに向けた。

「こちらこそ。実は、今日は二人に紹介したい人がいてね」

「紹介?」

「そう。今回のプロモーションを、現場レベルで引っ張ってくれる人だよ」

まさかの事に、思わず聡士と顔を見合わせる。

「こっちへ」

有坂さんに連れて行かれた場所は、いつもの打ち合わせ用の部屋。

乱雑な部屋で、テーブルにパイプイスが置かれている。

「さあ、彼だよ」

ドアを開け、そこへ立っている人を見て絶句をした。

「大翔…」

そう。

そこには二年前に別れた彼氏、大翔がいたからだった。