オフィスに戻ると、聡士が真っ先に声をかけてきたのだった。
「佐倉、プロジェクトの打ち合わせをしたいんだけど、時間大丈夫か?」
「うん。大丈夫よ。その為に時間は作ってあるから」
待ち構えていたかの様にやって来た聡士に、出来るだけ冷たく答える。
突然、態度を変えたら変に思うだろうけれど、自分なりに言い訳は用意してあった。
「じゃあ、いつもの会議室で…」
さすがに様子を察した聡士は、戸惑いながらも先を歩く。
その背中を見ながら、亜子の言葉を思い出していた。
“海外赴任”か…。
そんな話、一香にはしても、私にはしないんだろうな…。
なんて、心の中で嫉妬をしている自分がいる。
ため息を飲み込みながら会議室へ入ると、すぐに聡士は部屋の鍵を閉めたのだった。
「そ、聡士!?何、鍵を閉めてるのよ」
これじゃ、気付かれたら変に思われる。
「静かにしろよ由衣。お前が騒がなければ、誰も気付かないって」
「え…?」
眉間にシワを寄せ、明らかに不機嫌な表情を見せながら、聡士は私に近寄った。
「な、何をするの?」
「何って、それはこっちのセリフ。急に態度を変えてる理由を言ってみろよ」
「そ、それは…」
言い訳はちゃんと用意しているのに、凄みに圧倒されて言葉が出てこない。
「言えない事か?」
何で、私がこんなに脅されているのだろう。
“言えない事か?”
それは、こっちが聡士に言いたいセリフだ。
言えない事をしているのはどっちよ。
だけど、何も答えられない私に、聡士はイラついた様な顔をして、そして強引にキスをしてきたのだった。
「ちょ、ちょっと何をするのよ」
何とか体を離すと、聡士は私を睨んでいる。
「訳を話せよ。何で、急によそよそしくなってんだ?」
本当はドキドキと高鳴る胸を抑えて、亜子との会話を思い返す。
このまま流されちゃいけない。
「一香の友達と分かった以上、聡士とは今までの様に接する事は出来ない」
唇を乱暴に拭うと、言い放ったのだった。

