――いつもと変わらない社内の風景。

特に休み明けは、どことなくせわしい。

朝から電話もよく鳴る。

「おはよう、佐倉」

そして聡士も、変わらない爽やかな笑顔で、挨拶をしてきたのだった。

「おはよ…」

だけど、どうしても顔を合わせられない。

一香からは二人の関係について、知らない振りをして欲しいと口止めをされた。

私に紹介した手前、そんな事を話したと知られたら、聡士が投げやりになっても嫌だからだと…。

それでも私に話したのは、隠し続ける事に罪悪感があったかららしい。

知った上で、二人がうまくいくなら最高だと、一香なりに考えた末に話した事だったとか。

だけど、不器用な私は、さっそく態度に出てしまっている。

「元気ないけど、体調悪いのか?」

パソコンと向かい合っている私にイスを寄せると、耳元で聡士が囁いてきた。

ずっと眠れないから、自分でも顔色が悪いのは分かっている。

「別に。大丈夫だから」

心配をしてくれているのは感じるけれど、こんな冷たい返事しか出来なかった。

そんな私の様子に何かを察したのか、聡士はそれ以上突っ込む事はなく、自席へと戻ったのだった。

いっそ、このまま嫌われてしまえばいいのに…。

そうすれば、これ以上のめり込む事もなくなる。

だけど、こんな風に毎日会うのに耐えられる?

そんな葛藤が心の中に生まれていた時、

「由衣、ちょっとだけ時間大丈夫?」

と、声をかけてきたのは亜子だった。

最近、同じフロア内にいるにも関わらず、仕事ですれ違っていた私たちは、まともに会話が出来ていない。

かなり久しぶりに声をかけられた。

「あ、うん。大丈夫」

隣の聡士との空気が重苦しかっただけに、助け舟が出た様で急いで立ち上がると、言われるまま亜子へついて行く。

「ちょっと話があるから」

そう言うと、亜子は足早に非常階段の扉を開けたのだった。

「亜子、どうしたの?こんな所へ来て…」

廊下の奥にある非常階段は、建物の中に設置されてあるもので、社員でも一、二階程度のフロア移動なら普段から使っている場所だった。

「聡士くんと何があった?」

「えっ!?」

突然振られた話題が聡士だっただけに、思い切り動揺してしまう。

今や社内でも好評価の聡士は、みんなから“聡士くん”と呼ばれていた。

亜子も例外ではなく、社内では聡士との仲もいい。