一香との約束の日は、あっという間にやって来て、夜から居酒屋で会う事になっていた。

知り合って5年経つのに、初めて知った彼女行きつけの店。

創作料理のモダンな店で、若い客が多い店だった。

そこの奥にある個室に通されて、一香と二人“友達”を待っている。

6畳ほどの和室で、掘ごたつになっているから足は楽だ。

だけど、そんな雰囲気を満喫する余裕のない私は、落ち着かない感じで一香に聞いていた。

「ね、ねえ。友達ってまだ来ていないの?」

「なんか遅くなるとかって言ってた。でも、もうすぐよ。それにしても今日の由衣、可愛いじゃない」

「えっ!?」

「もしかして、案外乗り気?」

「そんな訳ないじゃない!」

つい声を荒げた私を、一香は笑った。

普段はかっちりとしたスーツだから、今日くらいはニットにシフォンスカートを着てみたのだった。

それに、もし想像通り聡士だったらと考えると、やっぱりいつもと違う自分を見て欲しかったから。

だけど、聡士でない事を祈ろう。

もし、そうなら、一香との関係をあれこれ考えてしまいそうだ。

鼓動が速く打つのを感じながら、小さく深呼吸をした時、

「あっ!来た!もう~、遅い!」

一香の言葉に体が飛び跳ねそうになりながら、入口に目を向け固まった。

「悪い。ついゆっくりし過ぎてさ」

そう言いながら入ってきたのは…、

聡士だった。

向こうも私がいたからか、その言葉を最後に固まっている。

目を見開いて、驚いている様だった。

ただ、その偶然を喜んでいるというよりは、どこか気まずそうにしている。

「ん?何?もしかして、二人って知り合いなの?」

さすがに空気を読んだ一香が、どちらともになく聞いてきた。

聡士は、それに返事をする余裕もないらしく、ただ、ゆっくりとこちらに向かってくる。

だから、代わりに私が、出来るだけの平静を装って答えたのだった。

「うん。実は同じ会社なんだよ」