部屋中に、私の甘い声が響いても、聡士はそれを止めようとはしない――。

「聡士…、そこはダメ…」

「何で?ここが一番、由衣が反応する場所なのに」

「いじわる…」

そうやって、私が壊れていくのを見るなんて。

それも、とても楽しそうに…。

気が付けば、体を重ねる時、私の方がより多く聡士に抱きついている。

それだけ、私の方が夢中なんだ…。

今夜も、何度重なり合っただろう。

まだまだ寒い季節なのに、お互いの体は汗ばんでいた。

シングルベッドで寄り添う聡士の体からは、大翔と同じ香りがして、そして今もやっぱりあの甘い香りがする。

一香と同じ香水の匂い…。

これだけ香りが続くって事は、聡士が何かに使っている香水なのかも。

自分の中でそう結論付けた時、隣ではいつの間にか聡士が、寝息を立てて眠っていた。

穏やかな寝顔は、また起きている時とは違った色気がある。

抱きしめてくれる腕からそっと抜けて、服を簡単に羽織るとベッドを降りる。

「お水…」

渇いた喉を潤そうと、テーブルに置いていたペットボトルに手を伸ばそうとした時、薄明かりの下で何か光る物が見えた。

テーブルのちょうど真下に落ちている“それ”を手にした瞬間、心臓が止まりそうなくらいの衝撃を受けたのだった。

「こ、これ…」

それは、チェーンの切れたネックレス。

シルバーで、ハイビスカスのチャームがついたネックレスだった。

震える手でそれを取り上げ、明かりの下に持っていく。

チャームを裏返した時、それが誰の物か瞬時に分かったのだった。

「Iのイニシャルがある…。嘘でしょ?」

それは、きっと一香の物。

このネックレスは、入社一年目の夏休みに、一香とハワイに行ってお揃いで買った物だ。

有名なシルバーアクセサリーの店で、デザインもオリジナル。

裏にイニシャルを入れたのも覚えている。

「何でこんな物が聡士の部屋に…?」

ゆっくり振り返り聡士を見ると、変わらず気持ち良さそうに寝息を立てているのだった。