そう言えば、一香から相手の名前くらい聞いておくのだった。
友達というくらいだから、年齢はさほど変わらないのだろうけど…。
「おい、由衣。何考えてんの?」
「えっ!?」
いけない。
聡士と新しいプロジェクトの打ち合わせ中なのに、すっかりボーッとしてしまっていた。
六人ほどが入れる小さな会議室で、聡士と二人で打ち合わせをしているところだった。
ブラインドの隙間から見える街の景色は、すっかり夜の装いになっている。
「俺たちに任された、新製品ピーアールの大事な仕事なんだからな?集中しろよ」
「ごめ~ん…」
仕事の時の聡士は、本当に厳しい。
さすが、営業成績トップを取るだけはある。
「え~と、この色をどうするかよね?」
手元の資料をめくりながらそう言うと、聡士が顔を覗き込んできた。
「悩み事でもあるのか?」
「えっ!?」
「なんか、今日はずっと心ここにあらずって感じじゃん」
気付いてたんだ。
「あ、うん…。たいした事じゃないから。ごめんね、打ち合わせしよ」
不覚にも、胸がドキドキする。
見てくれていた事が嬉しくて、聡士と顔をまともに合わせられなくなった。
うつむき加減の私の顔を、聡士はさらに覗き込んで…。
「由衣、何で顔を合わせないんだよ」
そう言うと、軽く唇を重ねてきた。
「そ、聡士!?」
ドアの向こうには、まだたくさんの人たちが残っている。
「もし万が一にも、誰か入ってきたらどうするのよ!?」
極力小声で文句を言うと、聡士はまるで気にしない風に言い切ったのだった。
「使用中のプレートをしてるんだから、突然人なんか入ってくるかよ」
「もう~。そんなの分かんないよ?」
小さく膨れた私に、聡士はニヤッと笑みを浮かべた。
「帰るまで待てなかったんだよ。いいだろ、少しくらい」
そう言って、舌を絡ませてきた聡士に、こぼれそうになる声を抑えて、弱く抵抗する。
だけど、両手を掴まれた私は、ただ聡士の思うがままにされるだけで…。
それが、さらに心に火をつけたのだった。

