「え?あ、うん。たまたま店で見つけて、気に入ったから。最近、つけ始めたのよ」

「そうなんだ…」

ただの偶然よ。偶然。

だけど、何でまた同じ香りなのよ。

大翔の時もそうだけど、こんなに偶然が重なっては、心臓に悪すぎる。

「ところで、その男友達って人、本当に会わなきゃダメ?」

「う~ん…。出来たら会って欲しいの。友達としては最高のヤツだから、由衣とくっついて欲しいのよね」

「ったく…」

どこまで勝手なんだか。

だいたい、相手が私を気に入るかなんて分からないのに。

「由衣って、上手に人付き合いするじゃない?だから、きっと上手くいくと思うのよ」

「う~ん…」

そう言われても、全然乗り気はしないんだけどな。

「その人、久しぶりに戻ってきたって言ってたけど、何してる人?」

「普通のサラリーマンよ。仕事を転職して帰ってきたんだ」

「へぇ」

転職ねえ。

大丈夫なのかしら、その人。

まさか、仕事がうまくいかなくて地元に戻ってきたパターンとか?

「あんまり気が進まないんだけど…」

「お願い!一度会うだけでいいから」

今までこんなに粘られた事はないから、よほど紹介したい人らしい。

全く気は進まないけれど、久しぶりに会った親友という事もあり、渋々頷いたのだった。

「分かった。会うだけ会ってみる」

「ありがとう!さっそく連絡してみるから」

表情を明るくして、一香はホッとした様に料理に手をつけたのだった。

聡士に深入りしないで済む、いいチャンスかもしれない。

それに、彼にとっての私は、やっぱりその場しのぎに過ぎなかったんだ。

だから、連絡もくれない…。

そう思うと、少し切なくなってしまった。

だけどその夜遅く、携帯に聡士からメールがきたのだった。

『明日の夜、会えないか?』

その誘いが嬉しくて、すぐに返事を返していた。

『うん!泊まりに行く』

ヤバイ…。

私、聡士にハマっていっている。