シャンプー?それとも整髪料?
明らかに、このベッドからしか薫らない匂い。
今まで一度も、聡士から匂った事はない。
それなら、別の人…。
きっと、女の人の匂いだ。
やっぱり、恋人がいたんだわ。
ううん。まさか、“いる”わけじゃないよね?
だけど、もしそうだとしても、彼女でも、友達すらでもない私が、それを聞く必要もないはず…。
だけど、どこか胸が切なくて、服を脱がされる間、私を見下ろす聡士に言っていた。
「この夜が、本当に待ち遠しかったの。早く、聡士とこうなりたかった」
好きとか関係なく、私は聡士を求めている。
だけど、こんな風に体を重ねるだけなら、理由なんていらないじゃない。
ただ、抱き合いたい。
それだけで充分な気がする。
「俺もだよ、由衣。余計な事なんて考えさせなくしてやるから」
「うん…」
その言葉、本当は誰に言っていたの?
そんな“余計な事”を考えながら、今夜も聡士に抱かれていった。
体中に刻まれたキスの跡が、痛いくらいに植え付けられた聡士の記憶が、どんどん忘れられなくなっていく。
そんな中、一度だけ“最中”に聡士の携帯が鳴った。
もちろん、それは出なかったけれど、後で確認をした聡士の顔色が少し変わっていた。
きっと、かけ直したかったのだと思う。
確信はないけれど、それは女の勘で分かったから。
そして、その人こそ、甘い香りを付ける人なんだと…。
誰なの?
恋人?それとも昔の恋人?
知りたい様で、知りたくなくて。
こんな時くらい、独り占めしたっていいじゃない。
そう思って、何も聞かなかった。
聞けなかった。
電話の相手も、甘い香りの相手も…。

