聡士に連れて行ってもらったイタリアンの店は、夜にはバーにもなるモダンな店だった。
だけど、ランチタイムは、ワンコインで食べられるリーズナブルさに、OLやサラリーマンでいっぱいだ。
「聡士、よく見つけたね。美味しい!」
「だろ?たまたま教えてもらってさ。俺も気に入ったんだ」
満足そうな聡士は、ランチのパスタを頬張りながらそう言った。
今さらながらに気付いたけれど、やっぱり聡士は目立つ。
外見の良さもだけれど、身のこなしがスマートだ。
店に入る時も、さりげなくエスコートしてくれたりで、店内にいた女性客がチラチラと見ていたくらい。
改めて、当たり前の様に近くいる自分が不思議に感じる。
恋人同士でもないのに…。
「あっ、そうだ。ごめん、携帯見ていい?」
そういえばさっき、メールが来ていた事を思い出した。
「え?ああ、いいよ。気にするなよ」
携帯を取り出し、とりあえず確認するつもりで見てみると、久しぶりに親友からのメールだった。
彼女の名前は、川崎一香(かわさき いちか)。
同期だったのだけれど、二年目で辞めてしまっている。
入社当時から気が合い、派手な外見とは違い、意外と繊細で家庭的な明るい人で、今では一番の親友だ。
「友達からだった」
つい、口調が明るくなるのが自分でも分かる。
一香はその後再就職をして、今では中堅企業のメーカーで、OLをやっているのだ。
「友達、何だって?」
「うん。久々に今夜会えない?ってお誘いだった」
何てタイミングの悪い。
出来る事なら、会いたかったけれど…。
「そっち行くのかよ?」
ふて腐れた様に言う聡士に、笑って答えた。
「行かないよ。聡士とのが先約だから」
本当に、聡士を選ぶ方がいいのかは分からない。
だけど、こんな恋人同士気取りも悪くない…、そう思ってしまっていた。
一香には、また新しく年が明けてから会おう。
その時は、聡士の話を聞いてもらおうかな…。

