「由衣、もう少しこっちへ来いよ。寒いだろ?」

「大翔…」

ああ、この温もり…。

私が、どこよりも幸せを感じる場所。

大翔の大きくて暖かい腕に抱きしめられると、不安も全て吹き飛んでいく。

厚くてたくましい胸に、顔を埋められるのは私だけ…。

「なあ、由衣。大学を卒業して、社会人になって落ち着いたら結婚をしよう」

「大翔!?本当に?」

「本当だよ。また、必ずプロポーズするから」


「うん…。待ってる」


―――――
――――

あの頃ほど、幸せな時間を感じた事はなかった。

涙を流して喜んだ私のまぶたを、大翔は優しくキスしてくれたっけ…。

会いたい。

会いたいよ、もう一度。

こんな勝手な願いが叶えられるわけないと分かっていても、思わずにはいられない。


「…依。由衣?」

「う…ん?」

あれ?

ここはどこだっけ?

「お前、うなされてたけど大丈夫か?」

「え?あ…」

顔を覗き込んでいるのは、聡士だった。

そうだ。

私、聡士と…。

服を着ないまま、いつの間にか眠っていたらしい。

外はまだまだ暗いけれど、イヴはもう終わっている。

「何だか、変な夢を見ちゃって」

「夢?」

大翔と抱き合っていた頃の夢を見るなんて、ますます忘れられない。

「うん。変な夢。だから、うなされてたみたい。ごめんね。起こしちゃった?」

ゆっくりと起き上がった私と同じ様に、聡士も起き上がる。

サイドテーブルに置かれたミネラルウォーターを手に取ると、それをゆっくりと飲んだ。

今さら、思い出してどうするのよ。

気を取り直して、それをテーブルへ戻した瞬間、

「由衣…」

聡士は私を抱きしめると、再びベッドへとゆっくり倒した。

そして唇を塞ぐと、当たり前の様にもう一度抱いてきて、私たちは長いようで短い夢の夜を過ごしたのだった。