国際線は、こんなに人が多いのかと思うくらい、人で溢れ返っている。
「凄いのね。夏休みとかでもないのに、みんなそんなに海外に行くの?」
「確かになぁ…」
荷物を預け、チェックアウトを終えた聡士は、搭乗までの少しの間、小さなベンチに座っている。
私もその隣に座り、何を見るということもなくボーッとしていた。
後少しで、しばらくの別れ。
今さらながら、緊張でいっぱいになってきた。
そんな時、
「由衣…」
聡士が呼びかけてきた。
「何?」
「お前、大翔に指輪を返したんだってな。あいつから聞いた」
「そうなの?わざわざ、そんな事を言ったんだ」
大翔にしては珍しく、プライベートを報告するのね。
「それでさ…」
「ん?」
聡士はぎこちなく、手荷物の中から小さな箱を取り出した。
「これ、何…?」
「開けてみ?」
まさか、まさかよね…。
緊張も最高潮になり、キレイにラッピングされた包み紙を開ける。
中から出てきたのは、ピンクの小箱。
そして、それを開けて出てきたのは…。
シルバーの指輪だった。
「指輪…」
「それ、シンプルなんだけど、ピンクダイヤが付いているんだ」
「ピンクダイヤ!?」
ピンクダイヤって、けっこう値が張らないっけ?
高いって聞いた事があるけど…。
指輪の真ん中でキラキラと輝くピンク色の石は、ダイヤモンドらしい。
「あ、ありがとう。聡士…」
まさか、指輪が貰えるなんて思ってもみなかった。
茫然とする私から、聡士はゆっくり指輪を取ると、左手の薬指にはめてくれたのだった。
「ピッタリ。大翔から聞いた甲斐あったな」
「大翔から?」
「そう。あいつなら、由衣の指輪のサイズを知ってるだろうと思ってさ」
茶目っ気たっぷりにそう言うと、聡士は私の左手を握った。
「これは、俺を忘れないで欲しいって意味で贈る。いつも近くで感じて欲しいんだ」
「うん…。ずっとつけるから」
ヤバイ。また泣きそう。
「いつか、絶対に由衣にプロポーズをする。その時まで、これを持っていて」
「聡士…。私、絶対に寂しさなんかに負けないから。だから、聡士も思い切り頑張ってきてね」
「ああ。思い切り頑張ってくるよ。そして、いつか近い未来、必ず由衣を迎えに行くから」
「うん」
思い切り聡士の背中に手をまわし、こぼれそうになる涙を抑えた。
しばらく離れていても、必ずずっと一緒に居られる日が来るよね?
それまで、私は頑張るから。
聡士を信じて、自分の気持ちを信じて頑張るから。
だから、その日まで…。
しばらくのさようなら。