「よし!荷物はこんなもんだから」

「忘れ物ない?パスポートとか」

「ないよ。大丈夫だって」

すっかり物がなくなった部屋で、最後のチェックを行う。

簡単な家具はすでにアメリカへ送っていた。

「家電は、買い直さないといけないから大変ね」

「まあな。でも寮だから、とりあえずの電気なんかは付いているらしいけど」

「そうなんだ。聡士…、本当に体には気を付けてね」

本当に、今日行ってしまうんだ。

遠いアメリカへ。

「ああ。由衣も、無理はするなよ?お前、変なところで無茶するからさ」

「大丈夫よ」

笑いながら返事をした私を、聡士は優しく見つめた。

「本当に、由衣と離れるなんて信じられないな」

「私も。だけど、こうやって聡士と出会って恋に落ちたことが、もっと信じられないかも」

「何だよ。それ、どういう意味?」

「運命だなって思ったって事よ。側にいてくれた大翔とは、未来を約束出来なかったのに、離れ離れになる聡士とは未来を信じられる。それが不思議だなって」

そう言いながら、涙が溢れてくる。

やっぱり、寂しいよ。

だけど、それは言えない。

知らない場所へ行く聡士の方が、ずっと不安でいっぱいだろうに、ひとつもそれを口にしない聡士に、私が弱音を吐くわけにはいかない。

すると、聡士は優しく抱きしめてくれたのだった。

「由衣、必ずメールや電話をする。寂しくなったら、いつでも言ってこいよ」

「うん。私、遠くから聡士をずっと応援するから」

だから、うんと頑張ってきて。

有能な聡士なら、きっと向こうでも評価をしてもらえる。

次はいつ出来るか…。

私たちは次の再会まで、”最後”のキスをした。

この温もりをもう一度感じられるまで、それまできっと頑張るから。

聡士の温もりを思い出しながら…。

「あっ、タクシー来たな。行こうか?」

「うん」

空港まで見送りに行く約束をした私は、今日は仕事を休んだのだった。

空港までの20分。

タクシーの中で、私たちに会話はなかった。

その代わり、聡士はずっと私の手を握ってくれていたのだった。

当たり前にあった温もりも、存在も今夜からはない。

次に会えるのはいつの日だろう。

もっともっと一緒に居たいのに、タクシーは渋滞にさしかかる事なく空港へ着いたのだった。