”好きだ”

その言葉は、私の胸に重く響いた。

「あんなに一香が好きだったのに、何で私を…?」

それが、今の告白に対する正直な気持ち。

嬉しくないわけがない。

本当は泣きそうなくらい嬉しいけれど、不安な気持ちも本当だ。

「前に琉二と4人で飲みに行った時、聡士は一香へキスをしていた。それも、大翔を忘れされるって言って…」

あれから、そんなに日が経っていない。

それでも、私の方が好きだと言うの?

すると、聡士は取り乱すことなく冷静に答えてくれたのだった。

「あの時は、俺自身どん底にいた気になってた。お前から、大翔とやり直す事を考えると言われて、結局また望んでも手に入らないものがあるって思い知らされて…」

「それで一香に?」

「ああ。もうあの頃は、一香への想いは吹っ切れていた。あいつ自身も、変わらず俺に気持ちはないし。ただ、あいつも大翔が由衣の元彼って事でショックを受けていて、それなら一層の事潔く俺と付き合おう、そういう気持ちでキスをしたんだ」

そして、鼻で笑うと続けた。

「最低だろ?今度は由衣への未練を、一香で埋めようとした。俺は由衣に出会って、初めて一香以外の女に真剣に興味を持てたんだ」

「どうして?」

「体の関係は抜きにしても、全然俺に媚びないし、それに仕事を格好良くこなす女は大好きなんだ」

「そこ!?」

もっと、こう癒されるとか可愛いとか、そういう理由はないの?

「そこって何だよ。俺は、ぶりっこみたいな性格の女は大嫌いだから」

「へぇ。でも、その割には人をフラフラしてるとか、けっこう言いたい放題言ってくれた気がするけど」

「それは、お前がちっとも気持ちに気づかないからだろ?」

「気持ちって?誰の?」

すると、聡士は途端に顔を赤らめた。

「だから…、その…」

「だから、誰のよ?」

意地悪く問い詰めると、まるで子供の様にムキになり聡士は言ったのだった。

「俺のだよ!だいたい、お前を抱くのだって、いつまで遊びだと思ってるんだよ。少しは何か感じなかったのか?」

「勝手な事を言わないでよ。自分だって一香と私を、行ったり来たりしてたクセに。そういうのがあって、何をどうすれば聡士が私を好きだと思えるのよ」

「だから、そういう所が、お前が見えるものしか見ないって言ってるんだよ」

「あ~、うるさいわね!もうやめ!もう嫌になってきた」

ふて腐れて横を向くと、聡士がいかにも怒りを抑えた口調で言ってきた。

「嫌になったってどういう意味だよ。だいたい、こっちは気持ちを伝えたんだ。いい加減、由衣の気持ちも聞かせろよ」

聡士と会話をすると、どうして子供のケンカの様になるのだろう。

大翔とは、こんな風にはならなかったのに。

だけど、こんな感じは嫌じゃない。

むしろ、私らしさが出せている気がする。

ゆっくりと聡士の方を向くと、本当の気持ちを話した。

「私、聡士とはきっぱりさようならをするつもりだったの。アメリカは遠いもの。もし、付き合えたとしても、また一香が頭をかすめた時、聡士を疑ったりするのが嫌だから。近くに居れば話せる事も、遠くにいればすれ違うばかりかも…」

それに、離れ離れで気持ちが続くかの不安もある。

だけど、そんな私に聡士は、きっぱりと言ったのだった。

「不安に思うなら、隠さず話してくれればいい。俺はもう二度と、由衣に嘘はつかない。そして、二度と由衣を疑うこともしない」

「聡士…」

いいの?

本当にいいの?

自分の気持ちを、認めてしまっていいの?

「教えてくれよ。由衣の気持ち。ダメならダメで、きっぱりと諦める。もう誰かに逃げたりもしないから」

真っ直ぐ見つめる瞳に吸い込まれるように、私は言っていたのだった。

「好き…。私も聡士が好き」