本当の気持ち…。

「私の中で正直、整理がつけきれていないのもある。ただ、聡士と一香の関係は、けっこう早い内から知っていて、それがショックだったのは本当」

すると、聡士は小さくため息をついた。

「俺も、それは全然気付かなかった。ネックレスの事も、一香に聞いてビックリしてさ」

「それだけじゃないよ。聡士のベッドからは、一香と同じ香水がしたもの。不用心過ぎるって」

そう言うと、聡士は天を仰いだ。

「あの頃は、はっきり言って迷走していた気がする。由衣の事は、本当軽く考えていたし、一香への気持ちを捨てきれなくて、会うたびに感情をコントロール出来なくてさ」

「それにしても、大翔への復讐で転職って、なかなか出来るものじゃないよ」

「それは…。ドン引きだろ?自分でも、冷静になってみたらドン引きだ。だけど、あの頃は夢中だった。一香を手に入れたくても出来ない人間もいるのに、大翔のどっちつかずの態度が腹立って仕方なくてさ」

それほど好きな一香を、今は一体どう思っているのだろう。

「結局、あいつは由衣を忘れきれていない。それなのに、どこかで一香への想いもあったはずなんだ。だから、俺がその元カノってやつに、手を出してみようかなって」

「たいした自信ね」

呆れたように言うと、聡士はバツ悪そうな顔をした。

「そんな事情を一香が知ったのはつい最近の事で、それまでは俺に琉二、そしてすぐ感づいた大翔だけが知っていたんだ」

「それを知った一香も、相当苦しんだんじゃない?」

「そう。だから、一香からはきっぱりとフラれた。この先、俺を恋人に思う事は絶対にないから、だから由衣を傷つけないで欲しいって」

一香が…?

「由衣に俺を紹介したことも後悔してたし」

「うん…」

何で、恋愛ってうまくいかないんだろう。

みんなの想いが一緒なら、こんな風にはならなかったのに、思いは全てが一方通行だったって事?

「あのね、ちょっと前に、仕事中に聡士と一香が、ビジネスホテルに入るのを見た事があるの。あれは何だったの?」

あの前後くらいから、いろいろな事が分かって混乱してきた気がする。

だから、本当の事を知りたかった。

「ああ…、あれか。見られてたんだな。あの日はただのビジネス。俺が契約を取ったのを覚えてないか?」

「聡士は、そういうの多いから…」

そう言うと、じれったそうに話を続けた。

「とにかく、あれは一香のコネで顧客の紹介を貰っただけ。それは本当だ」

「そうなんだ。それにしても、一香に会った時の聡士は、相当嬉しそうだったよ?確か、おでこを小突いていたし…」

「そこまで見たのかよ?俺でも忘れかけてた。あれは、そんな深い意味はないんだよ。単に契約が取れるのが嬉しくて、たぶん調子づいていたんだと思う」

そういう事だったのか。

「な?見えるものだけで判断したら、誤解がいっぱいあるだろ?」

聡士はそう言って、さらに続けた。

「お互いの距離が遠いから、見えるものしか信用出来ないんだ。だけど、その距離も縮まれば、見えなったものも見えてくる」

「うん…」

意外なくらい真面目な話をしてくる聡士に、戸惑いを覚える。

本当、私は彼の一体何を知っていたのだろう。

「だから、由衣。俺はもっともっと、由衣を知りたい。最初は、本当に気持ちなんて無くて近づいた。だけど今は違う。由衣が好きだ」