「おはよう!嶋谷くん」

「お、おはよう…」

心はだいぶすっきりとした。

そんな晴れ晴れしい気持ちで出勤をすると、自然と口調も明るくなるものだ。

だけど、聡士にはそんな私に違和感を感じるのか、怪訝な顔を向ける。

一香、大翔が話をしてくれた事、そして琉二と会ったことは、みんな聡士には内緒にすると約束をしてくれた。

というより、私たちの中で解決して欲しいからと、そう言ってくれたのだった。

「なあ、佐倉。お前、無理してないか?」

椅子を滑らせて、聡士は小声で話かけてきた。

「無理って何を?全然無理してる事なんてないわよ」

「そうか…。それなら、いいんだけど」

どうも納得出来ないといった顔で、聡士はデスクへ戻った。

「ねえ、嶋谷くん。プロジェクト、絶対に成功させようね」

「あ、ああ」

休みの間、いろいろ一人で考えて、一つの結論を自分なりに出したのだった。

それは、聡士には告白をしない事。

みんなには近い内に話をして、今まで知った事は黙ってもらうことをお願いするつもりだ。

聡士の事は考えれば考えるほど好き。

例え、自分の友達と何かあった人だとはしても、それでも好き。

だけど、聡士はアメリカへ行く。

最初はただの復讐で来たこの会社でも、きっと今はやりがいを感じているはずだから。

それに、アメリカ行きは聡士にとっても、前向きにやり直せるきっかけになるかもしれない。

一香を忘れる為にも、いい機会かもしれないもの。

そこに私が割り込んで、どうするんだろう。

日本とアメリカの遠距離恋愛?

それが出来るほど、私と聡士には信頼関係はない気がする。

だからって、もちろん大翔とやり直すこともしない。

私も聡士を忘れられるまでは、また仕事に打ち込もうと決めたのだった。

「佐倉、少しだけいいか?」

ほら、きた。

きっと、大翔との事を聞きたいに違いない。

「うん。少しだけなら」

ここで拒否をすれば、聡士はますます私に無意味に執着してくるだろうから、素直に応じることにした。

そして聡士の後をついて行くと、お決まりの非常階段へと来たのだった。

「ここが、一番人目につかないんだよな」

「確かにね」

だけど、一香とのキス現場は目撃したわよ。

なんて、心の中で呟く。

いつか、そんな事が笑い話に出来たらいいな。

「なあ、由衣。大翔とはどうなった?話が出来たのか?」

「うん。ちゃんと話をして、そしてね私たちはさようならをしたの」