聡士の車は、いつもより少し速いスピードで自宅へ着き、私を降りるように促した。
この路地一つ越えれば大翔の家なのに…。
つい、その先に目を向けていると、気が付いたのか聡士が言った。
「大翔は帰ってないと思うよ。それより、早く中へ入れよ」
止まない雨に、聡士も濡れている。
「ごめんね。聡士も濡れちゃった」
「俺はいいよ。頑丈だから。それより、シャワーを浴びた方がいい」
力なく頷いて、言われるがまま聡士の家へ入った。
「着替えは俺のを使って。お前の服は乾かしておくから」
「ありがとう…」
温かいシャワーで生き返る心地だけれど、涙は溢れて止まらなかった。
大翔は、連絡も無く約束を破る様な人じゃない。
それは、よく知っているのに…。
それとももう、私が知っている大翔じゃないの?
頭が痛いくらいに泣いた後バスルームから出ると、聡士のトレーナーとジャージのズボンが用意されていた。
どちらもグレーで、私が着ると手足が出ないくらいに大きい。
改めて、聡士は男なんだと実感してしまった。
「ありがと…」
気まずい気持ちで部屋へ行くと、聡士が私を見るなり吹き出した。
「何だかんだ強気な事を言っても女だよなぁ」
「えっ!?」
突然笑われて、こちらも面食らう。
「どういう意味よそれ」
「だから、普段は男勝りな事を言っても、由衣も女なんだなって事。今さらだけど、お前ってけっこう華奢なんだって思ったんだよ」
また、そういう事を言う。
どう返したらいいか迷う様な事を平気で言うのだから、やっぱり聡士といると戸惑うことばかりだ。
「ほら、こっちへ来いよ。何もしないから」
ベッドに腰かけてテレビを見ていた聡士は、そこから手招きをした。
「う~ん…」
でも、正直言って信用していないのと、大翔の事もあってとても乗り気になれない。
あからさまに迷っていると、聡士はわざとらしく眉間にシワを寄せた。
「大丈夫だって。そんな恰好の女を襲いたくなるほど、俺はもう若くないの」
「何よそれ」
ちょっとだけツボに入って笑った私に、聡士も笑顔を向けた。
「笑ったな。やっと」
「え…?」
「最近の由衣は、怒るか悲しそうかどっちかだったから」
そんな風に見えていたんだ。
言われてみれば、すごく自分自身がギスギスしていた気がする。
「今夜は、本当に何もしない。だから、一緒に眠ろう。明日は休みだろ?」
「あっ!そうか。もう週末だった」
すっかり曜日感覚もなくなっていたわ。
「だから、大翔もお前を誘ったんだろうけど」
「ねえ、聡士。もしかして、何か知ってるの?」
すると、聡士は小さくため息をついた。
「言わない。というか、ちゃんと本人の口から聞けよ」
そう言うと、テレビと電気を消し、ベッドへ入ったのだった。
「ほら、由衣。ちゃんと約束は守るから」
布団をめくり、誘導する。
「うん…」
ゆっくり聡士の隣で横になると、優しく抱きしめてきた。
「これだけ。もう寝よう。おやすみ」
「うん。おやすみ。本当にありがとう」
今夜は、聡士がいてくれて良かった。
でないと、絶対に眠れなったから…。

