「由衣?」
怪訝な顔を向けて、聡士が声をかけてきた。
その時、ハッと我に返ったのだった。
「大翔ね、もう会社を出たんだって。だから、すぐに来ると思う。やっぱりどこかで雨宿りをするから」
さっきは止められたシートベルトを急いで外すと、雨の降る車外へと飛び出したのだった。
「大丈夫だから。ありがとうね聡士」
「由衣!待てよ!」
制止する声を振り切って、人混みの中へ走り去った。
痛いくらいに、雨粒が顔を打つ。
駅のホームへ駆け込むと、すっかり全身びしょ濡れになっていた。
「大翔、どこにいるの?」
何度、電話をしても出てくれない。
どうして?
今夜は約束したじゃない。
誘ってくれたのは大翔だよ?
「どこに行ったのよ…」
泣きそうになる気持ちを抑えて、まだ肌寒い夜の駅でただ大翔を待ち続けた。
20時になり、21時になり…。
体も冷え切ったけれど、一番冷え切ったのは心だ。
もう、来ないの?
どうして、約束を破ったの?
意識すら朦朧とした時だった。
「由衣!!」
名前を叫びながら走ってきたのは…、
大翔ではなく聡士だった。
「聡士…、何で?」
「いや、気になって。まさか、もう居ないよなとか思いながら来たけど…」
心配そうに私を見る聡士。
情けない姿を見せてしまったな…。
だけど、どうして来てくれたのが、大翔ではなく聡士なの?
「由衣、このままじゃ風邪を引く。とりあえず、俺の家に来ないか?」
「え?聡士の家に?」
「ああ。別に何もしないから。お前、このままじゃ本当に風邪を引く」
優しく腕を引っ張られたところで、小さく抵抗した。
「由衣?」
「だって、まだ大翔が来ないと、決まったわけじゃないもん…」
淡い期待を持ちたい私に、聡士は一蹴した。
「あいつは、絶対に来ないよ」
「ど、どういう事?」
「いいから」
そう言って、すぐ目の前に停めてある車に乗せたのだった。
大翔が、どこに居るか知っているの…?

