カイルからクリスについてハジェンズに来ている側近たちは
宮の近くの宿舎に寝泊りをしていたが
宮仕えの使用人や侍女たちは地元民で宮の外に家を持っていた

ケシャも女官になってから
街の住宅地の外れに小さな家をクリスから支給され
そこに兄弟たちと暮らしている

女官と言う事もあって一般家庭より
少し給金は良いが
幼い兄弟を抱えているケシャの家計は
一般家庭と大差はない

貴族などが家を訪れる場合は
それに見合った持て成しをするのが通例
ケシャの家にその余裕が無いのはジャンも解っていた


「持て成しは本来、心でするものだ。
ケシャに好意を持って家を訪れるのであれば
しっかりとした誠意を見せれば問題はないだろう。」


ジャンの言葉にケシャは少し表情を曇らせる
だが
すぐにいつもの笑顔を貼りつけた


「解りました。
私にできる精一杯で御持て成しいたします。

では、私は仕事に戻ります。
お時間を摂らせてしまい申し訳ありませんでした。
失礼いたします。」


ジャンとは反対方向に歩き出したケシャ

その遠くなる背中に
思わず声を掛けそうになってジャンはハッとした


私は今ケシャを止めて何を言おうとした?

先ほど感じた小さな引っかかりが
今では大きなとげの様にジャンの心に刺さっていた