彼は恋をしている。

本人は気づいていないだろうが、初めての本気の恋をしている。

マホガニーのアンティークテーブルに携帯を滑らせた深雪は、ベッドに身を投げた。

深雪の両親はヨーロッパにいる。
アンティーク家具やヴィンテージ家具を直輸入する仕事をしているのだ。

だから彼女の部屋は、ロココ調インテリアで統一されている。

有り体に言って、深雪はちょっとしたお嬢サマ。

大学を卒業して数年が経つ今でも、毎月多額の仕送りが振り込まれる。

お金には困っていない。
むしろ、裕福。

そんな娘が水商売をしているとは、彼女の両親は露ほども思っていないだろう。

深雪の目的は金銭ではない。

欲しいのは、一夜の男。
一夜の恋。
束の間の燃えるような愛。

夜の街は、彼女にふんだんにソレを与えてくれた。