景時は立ち上がり、ジーンズのポケットにあるはずのバイクのキーを探った。
「俺、帰らなきゃ。
家でうさぎが待ってンの。」
『…え…
景時くんチで?』
深雪の声が聞いたことがないほど低く掠れたが、今の景時は気づけない。
「ありがと、深雪さん。
なんか俺、スゲェ大事なコトわかったわ。
深雪さんも、あんま浮気すんなよー。
カレシいるんでショ?」
『‥‥‥うん。
いるよぉ。
4、5人?』
「ハハ、既にダメじゃん。」
いつものような甘えた響きを取り戻した深雪の声を聞きながら、景時がバイクのエンジンをかける。
低く唸るその音は、受話器の向こうの深雪にも聞こえているだろう。
「じゃね、深雪さん。
俺、頑張るわ。
深雪さんも幸せになれよー。」
『…じゃあ、ね。』



