苦い追憶を破ったのは、携帯の着信。

腕時計を見ると、結構時間が経っていた。

帰らなきゃなー…なんて思いながら、景時は相手を確認せずに通話ボタンを押した。


「ハイ?」


『景時くん?
私ィ。深雪。』


「‥‥‥あー…
さっきぶり。」


深雪さん…

デスヨネー?

こんな時間に携帯を鳴らすのは、急ぎの狩りか…女。

取らなきゃ良かったか?
それとも、心のドコカで期待してた?

俺、サイテー…


『前はいつもこれくらいの時間に会ってたから、電話出てくれるかと思って。』


自嘲気味に唇を歪めて目を閉じた景時の耳元で、鼻にかかった甘い声が囁き続ける。