「?!」
桜はぐるっと辺りを見回した。
俺も食い入るようにモニターを見つめて、
敵の姿を探したが、
どこにも映っていない。
「確認できた?」
「いえ、
なにも反応ありません。
狙撃されたようにも見えませんでしたし…
どこかから攻撃されたとは考えられない状況です。
自分の位置まで誤魔化す力までは持っていないと思うのですが…」
「ふ~ん…」
桜は自分が攻撃されたことを、
とくに気にしていないようだった。
あんなに海が注意してたのに…
「海、
なんか感じた?」
「なんも。
ただなんか来るって思っただけ」
「鋭いね」
海は腕組みをして難しい顔で答えた。
どうやったら敵をあぶり出せるのか考えているのだろう。
「桜、
怪我平気なの?」
「うん、
皮膚の一番上の皮が剥がれただけ。
大した攻撃力じゃないと思うけど…」
俺の質問に桜が答えていると、
突然足元にいた頭のない小鬼が、
ガシッと桜の左の足首を掴んだ。
桜が脚をひいて振り払うと、
足首に小鬼と同じ赤黒い色の手形が残っていた。
またしてもパンっと音がして、
桜の左足首から血が弾け飛んだ。
「…なるほどね」
桜は辺りに風を生み出しながら呟いた。
簪でまとめきれなかった前髪が、
風になびいて巻き上がった。
「目が…」
目の奥が緑色に光ってる…
身体に走るぴりぴりした感覚が増した。
「桜、
敵はそれで見つけられるより前に、
攻撃する作戦だと思うよ?」
海がいうと、
モニターに映っていた小鬼たちが、
突然がばっと起き上がり始めた。
「そう簡単にはさせてくれないか」
桜は周りを囲むように集まってきた小鬼を見据え、
ため息をついて首を鳴らした。
「なら…一発で見つけてやるよ!」
ドンッと風が小鬼たちに押し寄せた。
桜を中心に小鬼たちをよせつけるまいと、
次々と風が生み出されていく。
「‐六花(りっか) 瑞花(ずいか) 玉屑(ぎょくせつ)
粉雪(こなゆき) 深雪(みゆき) 牡丹雪(ぼたんゆき)
白魔(はくま)となって襲いかかれ‐」
桜の言霊が響き渡った。
「‐吹き荒れろ 雪風巻(ゆきしまき)!!‐」
足元を覆っていた真っ白な雪が、
突如舞い上がり、
乱舞し始めた。
桜の生み出す風に乗って小鬼たちを薙ぎ倒していく。
モニター画面が吹き荒れる雪で真っ白になってしまった。
「今何個か言霊を使ったでしょ?
六花、瑞花、玉屑は雪を意味する言霊。
粉雪、深雪、牡丹雪は雪の種類の言霊。
白魔っていうのは大きな被害を出す雪を表す言霊」
「そんなに言霊覚えなきゃなんねぇの?」
海の説明に俺は頭が痛くなった。
まさかこんなに難しい言葉を大量に暗記して、
要所で使い分けるなんて芸当…
俺には無理だ。
無い脳ミソをフル回転させても1秒でオーバーヒートするのが落ちだ。
そんでもって考えてる最中に敵にけちょんけちょんにされちゃうのは目に見えてる。
