「あ~、俺晩ごはんのおかず抜きだわ」
海が呟いた。
バンバンバンッと音がして、
桜がモニターに戻ってきた。
その時間、
わずか一秒…
先程桜がいた位置から、
今桜がいるところまでに、
頭のない小鬼が3体転がっていた。
「…なにが起こってんだよ」
思わず言葉がこぼれた。
俺は今見ているものが現実に起こっているものとは信じがたかった。
まるで格闘ゲームを見ているような…
倒れた仲間を周りの小鬼が見つめた。
怒りの表情を浮かべ、
彼らが顔を上げると、
ある小鬼は頭を掴まれて地面に叩きつけられ、
またある小鬼は右側頭部に回し蹴りを食らい、
別の小鬼は顎に左から掌底を食らった。
小鬼は頭を失い、
ばたばたと雪の上に崩れていった。
「桜は小鬼に攻撃を当てるときに、
自分の体の周りに風を巻き付けるように発生させて、
威力を増大させてるんだ。
動きが速いのは、
足の裏で風の塊を破裂させてるだけ。
ジェット噴射ってとこかな?
桜が立ってたとこ見てみ。
雪が地面まで抉れてるでしょ?」
たしかに、
桜が消える前に立っていたところは、
白い雪の上に黒っぽい土が散らばっていた。
「すげぇ…」
あいつは本当に同じ人間なのだろうか?
いや、
風の力を持ってるって時点で普通の人間じゃないんだけど。
あっ、もしかして、
俺も普通じゃない…?
「小鬼撃破。
あとは術士だけ」
俺がそんなことを考えている間に、
桜は小鬼をすべて倒していた。
服や頬、それに手足など、
あちこちに赤黒い液体が付いていたが、
すべて返り血のようだ。
タイムは…30秒。
てことは?
一匹につき0.6秒か…
恐ろしい女だ。
絶対敵に回したくない…
「まだ小鬼の体に力が残っています。
気をつけてください」
「了解。
そっちで術士見つけたら教えて」
桜はそう言って目を閉じた。
モニター越しにぴりぴりとした感覚が伝わってきた。
「桜は自分の力を周りに広げるように出してる。
敵がどこにいても、
力の波が当たれば一瞬でわかっちゃうはず」
俺はやったことないけど、
と海がにやっとして説明してくれた。
攻撃と移動以外にもそんな風に使えるんだ…
「ほかになんかできんの?」
「なんかって?」
「ビーム出したりとか、
筋肉ムキムキになったりとか、
透明になったりとか」
うーん、
俺の考えって幼稚?
「ビームは出せないわ」
海が笑みをこぼして言った。
「一応力を持つと、
筋肉がつきやすくなるみたい。
あと見た目の筋肉量よりも、
だいぶ大きい威力の力が出せるんだって。
桜がフライパン二つ折りにできるとか、
考えられないでしょ?」
あぁ、やっぱり敵にしたくない…
「あと、
ここにいれば月の力を借りることができる。
主に回復の力なんだけどね…」
説明の途中、
突然海の表情が険しくなった。
「…桜!!!」
海が叫んだと同時に、
パンっと音がして、
桜の左頬から弾けるように血が吹き出した。
立て続けに右腕、左の脇腹、右太もも、
そして手足の先も、
何かが破裂したかのように傷ついた。
