桜に言われたことがなんとなくショックで、
海の話をぼーっと聞いてたため、
最後の言葉に反応するのに遅れた。
俺が?
あの桜さんと一緒に戦う??
けんかもしたことない俺が???
「無理無理!
さっきいったじゃん!
俺そうゆうのなんもやったことないし!!」
「私が教えるから問題ないでしょ?」
俺の意見を桜はさらっと受け流した。
「今日刀持ってないのはそのため?」
モニターに映った桜は、
海の言葉にわずかに表情を緩めた。
「さすがだね、海。
接近戦だったらいつも刀なんだけど、
今日は健にどんな風に戦うのか見てほしいから、
使わないことにした」
「いやいやいや、
そんなあっさり俺が戦うことにされても…」
「ごちゃごちゃ五月蝿い」
桜にぴしゃりと言われ、
俺は口をつぐんだ。
「力を得たからには戦わないといけない。
これは私たちがどう足掻こうが変わらないことなの。
受け入れろ、健」
桜は手首と足首を回し、
首を鳴らしながら言った。
「…きた」
桜の声と共に、
モニターが分割され様々な角度の映像が映し出された。
そのうちの1つに、
赤黒い骨ばった体つきの人間のようなものが大量に映っていた。
「なんだよあれ…」
「小鬼って呼んでる。
土を操ってできる人形だよ。
素早さは桜の1/5以下、
打撃の強さは桜の1/7、
握力は桜の1.3倍。
まあ簡単な話、
掴まれなきゃ勝てる」
俺の言葉に海が丁寧に答えてくれた。
「でも!
あんなにいるんだろ?
いくらなんでも…」
「ちょっと静かにしててくれる?
んでよく見といて。
あんたにやってもらうことなんだから」
またしても桜に厳しく言われ、
俺はもう返す言葉がなかった。
なに考えてんだ、この人は…
「術士の反応、
まだない?」
「まだ感知できません。
恐らくカモフラージュしているかと…」
「ふん!
小賢しい」
桜は長い黒髪を真っ赤な簪でまとめながら吐き捨てた。
「お爺ちゃん、
賭けようよ。
桜が50匹倒すのに一分かかるかかからないか」
「一匹につき1.2秒か?」
「そうだね」
「おい、そんな…」
不謹慎だと言おうとすると、
海が俺に微笑んできた。
「これくらい桜には余裕ってことさ」
「私はかからないに今晩のハンバーグをかける」
「じゃあ俺はかかるにハンバーグかけるよ。
桜今日ちょっと緊張してる。
健が気になるからかも…」
「聞こえてるよ」
海が小声で茶化すと、
桜がモニター越しに睨んできた。
「ごめんごめん、
さぁ、そろそろ始めてもいいよ、桜」
でも図星でしょ?
海の声が聞こえた気がした。
俺はすぐに海を見ると、
海はモニターをじっと見つめ、
にやりと笑った。
「目標、
20mまで接近!」
近くで見ると、
頭に角のようなものがあるのが見てとれた。
そのおぞましさに、
俺は寒気を覚えた。
「時間、
測ってね」
「もちろん」
海が答えると、
モニターの左下に0が4つ並んだ。
「最悪100秒で終わるか」
「努力する」
パンドラの問いに、
桜はすっと目を閉じて答えた。
「けがしないように…」
「それも努力する」
「絶対努力しないだろ」
海の問いには遮って答えてしまう桜。
「目標、
距離10m圏内に入るまであと10秒!
9!8!7!6!」
桜はカッと目を見開き、
右足を少し引いた。
「5!4!3!2!1!
スタート!!!」
号令と共に、
桜の姿が一瞬霞み、
消えた。
