「ギリギリ、セーフ!」


先輩はそう言うと、ジャケットについた雨の滴を払いのけながら私のほうを見てニコリと微笑んだ


先輩を待っていたかのように、そのあと雨は土砂降りに変わった


田島先輩は私が通っている学校の先輩だ


先輩は三年生、私は一年生


ずっと憧れていた田島先輩


もちろん話をしたこともなければ、こんな間近で見たこともない


いつも遠くからでしか見たことがなかった


私にとっては雲の上の存在みたいな人


その先輩が、いま私のすぐ隣にいる


私は緊張して喋ることができなかった


しばらく無言の時が流れた


激しく降り続く雨の音だけが二人の隙間を埋めていた